「どうしたの?」

「えっ?」

「何か嫌なことあった?帰る時からご機嫌斜めだよね」

「....別に、機嫌悪いわけじゃないよ」

ごまかすように濁すけど、言葉はぶっきらぼうになってしまう。

でも佐伯くんはごまかされたりしてくれない。

「そう?僕が何かしちゃったかな?」

「.....佐伯くんが悪いわけじゃないよ」

そう私が答えると、キューっと腰に回された腕に力が入る。

「雨宮さん」

「...ん?」

私が曖昧な返事をすると、佐伯くんはIHのスイッチに手を伸ばして鍋の火を止めた。

そして私の肩に手を掛けて身体を反転させると、ギューッと私を抱きしめる。

「どうしたの?」

「.....」

「僕のせい?」

答えないで首だけ横に振ると、おでこに優しいキスをして甘く掠れた声でまた私の名を呼んだ。

「雨宮さん、好きだよ」

優しいキスも、愛を囁く声も私を絆してしまう。

あんなにムカムカ・イライラしていたのに....どうして甘えたくなってしまうのだろう。

彼の発する『雨宮さん』は好きだけど、もっと特別が欲しくなる。

「ねえ...名前を呼んで?」

拗ねた声で求めると、彼が微かに笑ったのを感じる。

「莉緒...愛してる」

熱の篭る囁きは唇に落ちて来て、優しくゆっくりと何度も私の唇を包み込む。

「....ありがとう佐伯くん」

唇を離して彼を見上げながら伝えると、少しだけ首を傾げて憂いた瞳を見せて求めてくる。

「僕の名前も呼んで」

「....侑李くん」

「くんはいらないよ」

「フフッ」と笑う佐伯くんだけど、なんか恥ずかしくて呼び捨てできない。

「.....侑くんっ」

やっとそう呼んで彼にチュッとキスを返すと、優しかったキスに熱が込められて、いつの間にか彼のペースに持っていかれる。

上唇と下唇を交互に深く包むように、唇の形も柔らかさも味わうように、ゆっくりゆっくり彼の唇と舌で感じさせられる。

何度も開いてしまう唇から差し込まれる舌先でトロトロに蕩かされてしまったところで彼は一度唇を離す。

すると私の顔をそっと覗き込んできて、「それで莉緒、何があったの?」と甘い声で聞いてきた。