私は大根サラダに冷やしトマトを多めに取り、違う取り皿に焼き鳥やお刺身を乗せて彼の前に置いたら、またすごく小さい声で、「ありがとうございます」ってお礼を言ってくれたなぁ。

今思えば女子が苦手な佐伯くんは、やっぱりあの時引いていたよね。

懐かしい。

それからは佐伯くんも少しはみんなに慣れて、自分でも料理を取って食べるようになっていたよね。

そう佐伯くん、トマト好きだったよね!

トマト...トマト...。

「ちょっと、莉緒!あんた何してるの?そんなにトマトのせて」

亜香里の呆れた声に手元の皿を見れば、少しのレタスときゅうり、そして重なるトマト。

「え?...あっ、ごめんね。多かったかな?」

さすがに多いか心配になって、彼をそっと見ながら聞いてみた。

「あ...いえ、大丈夫です」

こわばる表情で受け取ってくれたけど...またやっちゃたな.....。

何となく気まずくて席を立ってお手洗いに逃げ込むことにした。

亜香里はそんな莉緒の後姿を目で追ってから、やたらトマトばかりのサラダをつつく佐伯へ視線を移した。

おいおい、あんなにトマトばかり食べられないでしょ。

そう思っていたのに...『えっ?嬉しそう?』

何か少し笑みを浮かべて次々トマトを食べる佐伯を見て驚いたけど、ふと思う。

「ねえ...佐伯。もしかしてトマト好きなの?」

「あ...はい。好きです」

今まで見た事ないはにかんだような笑顔に驚いたけど、それでピンときた。

「.....そっか。そういうことか...」

独り納得しながらも、佐伯に投げかけてみる。

「莉緒は佐伯がトマトを好きなことを知っていたんだね」

「えっ....そんなことは....。ああでも、もしかしたら前に話した事あるかもしれません」

「へ〜。莉緒覚えていたんだ」

そう私が言うと、顔を赤らめてうつむいた佐伯を眺める。

未だトマトをパクパクと食べている佐伯を見ながら、何?まだ可能性あるじゃないと思う亜香里だった。