麗華の力は強かった。
あたしは、便器から顔を上げることが出来なかった。
「れ、麗華姫!これ以上やったら、清水、ホントに死んじゃう!」
彩綾の慌てたような声で、麗華の力が弱まる。
「ぷ、ぷはっ!」
肺に酸素が流れ込む。
あたしは大きく息をついた。
「そうね…。ごめんねぇ、みんな。ちょーっとやりすぎちゃったね?ぶーちゃんをお風呂に入れるのは、また今度でい〜い?」
「う、うん。もちろん。」
奈々美が焦ったように笑って同意する。
「じゃあ、あたし、先に帰って…」
麗華の言葉が止まる。
「お〜い?大きな音がしたが、大丈夫か?」
ここからは見えないけど、入り口から聞こえる、この声。
伏見くんの声。
伏見くん、助けて!!
あたしの口から言葉が発せられることはなかった。
柑奈がしっかりとあたしの口を押さえていた。
入り口に向かったのは麗華。
「あ、亜希くん!ご、ごめんねぇ?ちょっと、その、ゴキブリがでて…。びっくりしちゃって!」
「そうか?ここにいるのは、白神だけなのか?」
「う、うん!ぞうだよ。」
ここから感じられるのは声だけ。
「そう…なのか。早く来いよ。授業遅れるぜ?」
「うん!!」
麗華の声は弾んでいて、伏見くんのことを好きなのは嘘ではないんだな、と思った。