「あっは、ごめーん、手が滑っちゃった〜!」



ボールを投げたのは、麗華だった。


麗華…今まで、直接手を下したことはないのに…



たらりと八神さんの鼻から血が滴る。

八神さんは血を拭うこともなく、目を見開いていた。



「なに、何してんの八神?あれ、もしかして泣く?泣くの、八神?早く泣けば?」


くすくすと笑いながら彩綾が八神さんの方を見る。


「なに?黙ってると分かんないよ?」


麗華もにっこり笑って八神さんの顔を覗き込む。

その瞬間。






————バキッッ!!!!






殴った。

八神さんが、麗華を殴った。


「なっ!!」


咄嗟に受け身を取れなかった麗華は、拳をまともにくらい、頬から血が出る。


「何やってんの、八神さん…!」


隣で百合香が息を呑んだ。

麗華を怒らせたら…何があるか分からない。

麗華はプルプルと震えている。



「麗華姫に何するのよ!!」



血相を変えた聖理奈が、八神さんに蹴りを入れる。



「最低!!!」

「ひどい!!」



彩綾と柑奈も参戦して、八神さんの姿はよく見えなくなった。



「大丈夫?麗華姫。」



奈々美が麗華の肩を抱いて眉をしかめる。



「みなさんどきなさい!!落ち着いて!」


女性の体育教師が人をかき分けて麗華と八神さんを連れ出す。


「保健室で手当してもらいなさい!」







先生も、見てみぬふりをするんだ。

…最低なやつはどっちよ。

あたしは、怒りで身体が震えるのがわかった。

「最低なのは、白神さんたちじゃない…」





あたしは、思わず呟いていた。