「あのな、俺からアイツ…まあ、八神について言えることはほとんどないんだ。…あのな、俺はアイツに……」


伏見くんは一瞬視線を彷徨わせたあと、あたしの目を見て言った。






———大切な人を、奪われたんだ。






「え…?それってどういう—?」
「亜希ー!一緒に弁当食おうぜ!」


あたしの声をかき消すかのように響いた声は、ここから、少し離れた入り口から入ってきた、


————八神さんだった。



「ごめん、アイツは、どこからでも嗅ぎつける。
だから、俺はこれ以上言えない。」



伏見くんは、あたしの頬に触れた。






「俺はもう、大切な人を失いたくないんだ…」






八神さんは、もう、あと10メートルというところまで来ていた。





「アイツは…フレネミーだ。」





それだけ言うと、伏見くんはちょっと微笑んで八神さんの方に向かった。


……意味が分からない。

八神さんのことはよく分かんなかったし…



——伏見くん、あたしのこと、「大切な人」って…




心臓がドキドキしているのは…気のせい?


あたしは、八神さんのことよりも、伏見くんのことが気になっていた。