呼吸が荒くなる。

どうしてそれを……?

ぶーちゃんは、昨日、閉じ込めたはずなのに。

なんで、そんな嘘つくの?




「ちょっと、白波。ポケット見せてみろ。」



佐藤が近づいてくる。

そう、あたしのスカートの右ポケットには、鍵が入っている。

でも、それが知られたら。



あたしは、「あたし」を保てなくなる。

せっかく塗り固めた嘘を引き剥がされる。

本当の「わたし」がバレてしまう。


違うっ…!「あたし」は、「あたし」!

「わたし」じゃない!


美人で、勉強も運動もできて、みんなに憧れられる、「白波柑奈」!!

毒親に依存するしかない「わたし」じゃない!!




「あ…あ……っ。」




あたしは、一歩二歩と後退する。

近づいてくる佐藤から逃れるために。

あたしは、教室の出口へ走った。



「いやあああ!!!」



気づいたら、涙が流れていた。

塗り固めた嘘を、偽の仮面を。

剥がされないように、しっかりと掴んで。

あたしは走った。



はやく、この教室を出たい…!



あたしは、その一心で走った。



———ドンッ…!



「え…!?」


突如襲う痛み。

目の前には、床。

あたし…転んで…?