春子が”俊と俺がそっくりだ”みたいに言ったけど、きっとアレを言ってるんだな。

若い時はこんな小さな医院でも医者なんかやってるのもあるし、昔から無口で愛想のない俺に対して、女性たちはやって来ると、好きだの、愛してるだの言われることが多かった。そりゃ、俺だって男だから、今夜だけっていう付き合いもなかったとは言わない。ただ、結婚を見据えての交際はしなかったし、するつもりもなかった。
春子が実家に婚約者として来て花嫁修業中も、変わらず俺のところには女性が声をかけてきたり、誘いは変わらなかった。
商売的には愛想を振りまくものだと祖父に怒られもしたが、興味のない女性に優しい言葉かけや対応をするつもりはない。
だけど、そんな女性たちの行動で春子が辛い思いをするのなら、俺は態度で示そうとある日を境に春子にだけ特別な対応をするようになった。

好きになったら、男としては当たり前だ。
だから、春子の言った”そっくり”はなんだか違う気がする。

『、、思うんだが、俊は当たり前の事してるだけだぞ』
「えっ?」

春子が俺の言葉に驚いたっていう顔をする。対面に座る嫁の薫さんと視線がかぶり、慌てて目を背ける。
勇はそんな薫さんと視線が絡むと急激に過去の事を思い出してしまうのだった。


そういえば、、あの頃から、春子の事を本当に愛おしいと表現できるようになったんだ。
あれは俊が生まれて3歳ぐらいの頃だろうか。僕と春子は見合い結婚みたいなものだったし、どこかで落ち着いてデートしたなんて事はあまりなかった。
だけど春子はきっと、普通の恋人達のような恋愛がしたかったんだろうって彼女の言葉から良く伝わってきたものだ。春子はもともとかなりのロマンティストだったから。

それである日、春子が突然、旅行に行きたいって言い始めた。言い始めたら断固として譲らない女だから大変だったんだけど、仕事の都合をなんとかつけた俺は本当に何も疑うことなく、それが春子の我が侭なんだと思っていた。