…………..ここは何処だろうか。

雲一つない青空。燦然と輝く太陽。果てしなく続く渇いた大地。俺は一人孤独に立ち尽くしていた。自分が今何処にいるかは分からないが、自分がここにいるという事実にはなにも疑問を抱かなかった。来るべくしてきたような、運命であったような、そんな感じがした。
すると、急に何処かから声が聞こえた。

「私は…ワイズ…ザザザ…ル。わ…ザザザ…いで。」

ワイズ…?誰だろうか。アニメで聞いた名前だろうか。それともエロゲか?ノイズがひどいな。戦争系のアニメのキャラか…?なんにせよ、そんな名前の奴は知らん。そんなことを思っていたとき、急に意識が途絶えた。
目の前に広がる白い天井。白く光る蛍光灯。病院独特の匂い。自分のいる場所に不安感を覚え、勢いよく、体を覆っていた布団をどかし、上半身を起き上がらせた。明るめの茶色の収納箱の上にテレビ。左にはスライド式のテーブルと黒色のゴミ箱が床に置いてある。テーブルは目の前に動かしてベッドの上で食べれるのだろう。まさに病院で見るやつだ。白い半透明のカーテンが陽光を塞ぎ、白く輝いている。おそらく…というか、病院であることは間違い無いだろう。
そもそも、何故ここにいるのだろうか。俺は電車に乗っていたはずだ。それで…。あぁ、そうか寝てしまったんだ。そしたら夢の中でワイズとかいう奴が何か言ってて…。そんなことを思っていたら扉が開いた。白いナース服に白いズボンの姿の女性が見える。俺の姿を見て心底驚いた様子だった。

「い、今すぐ院長を呼んできます。」

看護師の女性はそういうと、慌てて部屋を飛び出していった。かなり重大な病気になってしまったのだろうか。院長が来るまで1分も経ってなかったように思う。部屋のドアが空いた。どうやら看護師はいないようだ。白衣の、いかにも院長といった感じがする50代くらいの男性が入ってきた。黒髪でメガネをかけていて鼻が高く、微笑み、こう言った。
「どうも初めまして加瀬 凛太郎さん。東京帝国病院の院長を務めております三村 俊雄と申します。困惑するのも無理はありません。えー…結論から申し上げますと、加瀬さんは原因不明の病にかかっています。当病院でもできる限り原因解明の努力をしていますが、何しろ世界で初の症例ですので…」

「あの…、僕はどれくらい寝ていたのでしょうか。」

「あぁ、すみません。大事なことを言い忘れていました。えー…今日を含め、2週間になります。」

「そ、そうですか…。」

俺は落胆した。2週間の間に重要な大学の講義があったのにも関わらずその講義を失ってしまったのだ。

「えー…、話を進めますと、加瀬さんがかかった症状は世界初ですので、目覚めてから急にこのような選択を迫ってしまい申し訳ありませんが、体をスキャンさせて頂きたいのでありまして、拒否するという選択肢

もありますが…。」

現状を整理していて返答にかなり時間がかかった。

「検査なら、全然大丈夫です。」

「ありがとうございます。それと、しばらくはこの病院に入院しなければならなくなりまして、もし問題がないようでしたら、晴れて退院ということになります。その後も通院となりますが、金銭的な問題は全て

こちらが負担しますのでお気になさらずに。」

「えぇと、僕の両親には伝えられているのでしょうか。」

「もちろん伝えています。ご自身のスマホはこちらで保管していますので、今すぐにでも渡すことは可能で
す。」

「それなら、今持ってきてもらっていいですか?」

「もちろんです。それが済みましたら、食事にできますが、どうしましょうか。特に食事制限といったものはないですが、決められた物を食べるようになっていて、量は自由に決められます。」

「はい。大丈夫です。えっと、食事の量は全体的に多めにしてください。」

「かしこまりました。えー…私はスマホを持ってきますが、食事は後から担当者が持ってきます。」

と言い部屋を後にした。世界初の症例...。かなり大事のようだったが、俺の体はどうなってしまったのだろうか。もしかしたら、人体実験なんかされたりして。いやいや、そんなわけないか。などと思っていると院長が戻ってきた。スマホが入ったプラスチックの袋と俺のリュクサックを持ってきた。

「こちらがスマホになります。袋は捨ててしまって構いません。それとリュックサックもあったので一応持ってきました。それと、CTスキャンの件ですが、後日別の病院に移り、スキャンするといった流れになります。えー…大学に関しましては、こちらから話を付けてきてありますので、今後はオンライン授業のみ、病室内で受けて貰えばと思います。」

「分かりました。それと家に物を取りに行きたいのですが…。」

「それは身内の方に言ってもらって、取りに行ってもらうという形になります。先程、こちらから加瀬さんのご両親に連絡したところ、明日にでも来るそうなので、ご自身のスマホで連絡して貰えばと思います。」

「はい。分かりました…。」

院長は、それでは失礼しますとお辞儀をし、部屋を出た。正直情報量が多すぎて現状整理が追いつかない。多少慌てながらも、俺はすぐさま両親に連絡し、無事だと言うことを伝え、必要な物を言った。友人にもことの経緯を知らせようと思い、メールに書き込んでいる時だった。部屋の扉が開けられ、先程とは違う看護師の女性が入ってきた。お食事を持ってきましたと言ってテーブルの上に置くと、すぐに部屋を出ていった。友人への連絡を終え、飯にありついた。予想はしていたが簡素な食事だ。味は薄めだったが、思ったより美味しい。小中学生の頃に食べた給食を思い出し、ノスタルジーな気持ちになった。食べ終えた後、しばらくして、食事を持ってきてくれた看護婦さんが食べ終えた食器を片付けにきてくれた。その後、また院長がきて、普段の生活のアンケートを取られたが問題はなかったようだ。院長は最後に、難しいかもしれませんが今夜はゆっくりお休みになられてくださいとだけ言い、扉を閉めた。

就寝時間になると、また何日間も寝てしまうのではないかと心配になったが、院長の言葉を信じ、目を瞑っているうちにいつの間にか寝てしまった。
翌朝、俺は無事に起きられた。昼過ぎに親がきて、ずいぶん心配していたようだったが、俺の安全を確認すると安心していた。それ以降は大学のオンライン授業を受け、翌日にはCTスキャンを受け、問題なく病院での生活を送っていた。

意識が戻った時からちょうど1週間が経った時だ。その夜もいつもの同じように食事を食べその後大学の勉強をしていた。勉強し始めて5分も経っていなかったように思う。なぜかだんだん眠くなってきた。まだ眠くなるような時間ではないはずだ。最近夜遅くまでスマホをいじっているため、そのツケが回ってきたのかと思った。そして、意識を失うように寝てしまった。