「ねぇ、移動する先生、
柴咲先生かもしれないんだって」
「え〜、それが本当だったら、私ショック」
テストが終わって、みんな帰っていく中、
そんな会話が聞こえてきた。
その後も、何か話していたけど、
なにも聞こえなくなった。
放課後は、生徒の声で騒がしいはずなのに、
音が一つも私の耳に入ってこなくなった。
「…お…ぃお…いお!」
日向に名前を呼ばれて、我に戻った。
「何度も呼んだのに…って、
…どうして、泣いてるの?」
「…ごめん」
「いお!?」
私は教室を飛び出した。
日向の呼ぶ声を無視して、学校を出た。
もし、先生がいなくなるなら、今、会っておかないと、二人で話す時間がない。
そんなこと分かってる。
でも、信じたくなかった。
また、いつもみたいに生徒に笑顔で
(おはよう)
って言ってる姿が、簡単に想像できたから。
先生がいない学校の方が、
想像できなかったから。
後悔するかもしれない。
もし本当にいなくなってしまったら、
きっと私は後悔する。
寮に帰ってから、部屋に閉じこもっていた。
私には、祈ることしかできなかった。
先生が、いなくなりませんように、と。
…もう、私と話さなくてもいい。
目も合わせなくていい。
ただ、学校に居てくれることだけを祈った。
それ以上は、何も望まなかった。