「日向!」




「わぁ!何!?



あれ、いお?



…先生は?」




「それより、伊月君は?
どこに行ったか、知らない?」




「分かんないけど、
もう行くねって言ってたよ」



「…ありがとう」




きっと、
一人になれるところに行ったんだと思う。


もし私が、伊月君の立場だったら、
そうしてると思う。


花火なんて見たくない。



一人になりたい。
そう思うから。




後ろから日向の呼ぶ声を無視して走った。






教室か、体育館。


今、一人になれる場所は、そこぐらいだった。




でも、私は、
伊月君がいるのは体育館だと思った。
理由なんてわからない。



私の直感。




「伊月君!」



「…いおちゃん…?どうして?」



「ごめんね。




…私、何も知らなかった。



本当にごめんなさい」





体育館にいた伊月君は泣いていた。
でも、私が声を掛けた瞬間、私に背を向けた。




きっと、泣いている姿を私に見られたくなかったんだと思う。




翔太も、日向も、伊月君も、
いつも私のせいで、みんなを苦しめる。


 



「…いおちゃん、泣かないで」




気づけば、私の方が泣いていた。






「…本当はシュート、




…決まってたんだよね?」



私が訪ねると、
少し顔を顰めてから、首を横に振った。




「…失敗したよ」



「嘘。


…先生が言ってたよ?



綺麗に決まってたって」






「…シュートは入ったけど、
ライン踏み越えちゃったからさ」




ラインを踏み越えたなんて、私に言わなければ、分からなかったことなのに。



でも、伊月君の頼み事に、私が困っていたから、どんな理由をつけても、失敗したって言うつもりだったんだと思う。











…優しいから。






私の周りにいる人は、
みんな優しすぎるんだよ。






「いおちゃん、俺言ったよね。



…諦めたわけじゃないって。



だから、謝らなくても
これからアピールするよ?



…やめてって言ってもやめない。






…やめられないから」





「…どうしてそこまで」




「さっきも伝えたけど





…好きだから。




いおちゃんのことが





…今まで出会った人の中で、
比べ物にならないくらい……








……大好きだから」




そう言って、伊月君の頬を伝う涙は、
とても綺麗だった。


涙を流しながらも、優しく微笑む伊月君には、本当に申し訳なくなった。




「…ありがとう。でも、私は、




…伊月君の想いに応えられない」





「いおちゃんはさ、好きな人に振られたら、
諦められる?」



その質問に首を横に振る。



「…それと同じだよ。



だから、いおちゃんは気にしないで、好きな人に、真っ直ぐ走って行っていいんだよ」




私は先生に振られて、
先生にこんなことを言えるだろうか。



多分、言えないと思う。




私は先生の好きな人が、
私だったらいいのに、なんて考えてる。




欲張りだから。



自分のことだけじゃなくて、




好きな人の幸せを心から願う、
翔太も伊月君も、かっこよかった。






「…ありがとう」





「うん…もう泣かないで」



そっと涙を拭ってくれた伊月君は、
もう泣いていなかった。



優しい笑顔で、そっと私の涙を拭ってくれた。