「いお!めっちゃ可愛い‼︎」



日向の大きな声で、
一斉にみんなが私に注目する。



「…いおちゃん。



可愛過ぎるよ?」





日向に続いて、
伊月君までそんなことを言ってきた。




夏休みが終わってすぐ、私たちは、文化祭の準備に取り掛かっていた。
そして、採寸をした衣装ができたとのことで、女子はみんなメイド服を着ていた。




「サイズは大丈夫だね」



「うん」



私は、みんなに見られるのが恥ずかしくて、
すぐに着替えた。






「準備はどう?」




着替えてすぐ、先生が教室の様子を見にきた。





「いお、なんで着替えちゃうの?
せっかく先生に見てもらえたのに」




「い、いいよ、恥ずかしいし」




本当にすぐ着替えて、よかったと思った。






「七瀬は、メイド服着ないの?」





「来てたんですけど、さっき着替えました」





「…そっか」





見せてあげて、とでも言いたいのか、
日向がずっと私の方を見てくる。







「じゃあ、続き頑張れよ」





先生は、みんなにそう言って、
教室を後にした。






「いおちゃん、文化祭誰かと回るの?」


声をかけてきたのは、伊月君だった。



「…特に約束はないけど」


「じゃあさ、俺と」


「いお、文化祭一緒に回ってもいい?」



伊月君が、何か言いかけたところで、
後ろから翔太が声をかけてきた。




「…うん、いいよ。

…で、伊月君なんて言ったっけ?」






「俺…





いおちゃんと二人で文化祭回りたい」




「…えっと…」




「じゃあさ、四人でまわらない?」



私が返答に困っていると、
日向が声をかけてくれた。





「うん、それがいい!みんなで回ろ?ね?」







お願いだから、頷いて欲しかった。
流石に3人で回るのは、気まずいから。




「…わかった」



「ありがとう。ごめんね?」



「よし、最後の仕上げ、頑張ろ」




日向のその一言で、
みんな作業に集中しだした。




「…日向、ありがとう」



「モテるって大変だね」



そう言って笑う日向は、楽しそうだった。

でも、私はモテたいわけじゃない。




叶うなら私は、





好きな人の好きな人になりたかった。





「日向のおかげで助かったよ」



「…まぁ、私的には3人で回った方が、
見てる側としては面白そうだけどね」



「ちょっと」


「嘘嘘、ごめん」



そう言う日向は、
完全に私の反応を見て楽しんでいた。
でも、そんな冗談を言ってくる日向も
大好きだった。




「私、ダンボールのゴミ捨ててくるね」




「一人で大丈夫?」




「うん、大丈夫。ありがとう」




そう言って、ダンボールを持って教室を出た。




初めは余裕だったけど、
途中から手から滑り落ちそうで、
休憩しながら行った





「きゃっ!」





階段を降りている時、前が見えなくて一つ踏み外して、ダンボールを抱えたまま落ちてしまった。





「大丈夫!?」





後ろから声をかけられて、座り込んだまま振り返ると、先生が駆け寄ってきた。







「怪我は!?どこも打ってない?」






「先生!落ち着いてください。
大丈夫ですから」





私が階段から落ちたことに驚いて、焦っている先生を見ると、先生は心配性なんだなと思った。




「…本当に、大丈夫?」




「はい、大丈夫です」
   



そう言って立ち上がる。
すると、先生は何も言わずに、
ダンボールを持ってくれた。





「私も持ちます」


 


「また階段から落ちられると、
こっちの心臓に悪いからいい」





そう言って先生は、
ダンボールを渡してくれなかった。





「ありがとうございます」




私はそのまま、先生の後をついて行った。





「…どうして、一人なの?」




「みんな忙しそうだったので、
手が空いてる私が」





「力仕事は、男子に任せた方がいいと思うよ?




誰もいないなら…





…俺を呼べばいい」




そう言う先生は、
少し照れているようにも見えた。




「文化祭、誰かと回るの?」






「日向と翔太と伊月君と回ります。
先生は見回りですよね?」





「そうだよ。
だから、いおのメイド服見にいくね?」




私は、返答に困って黙ってしまった。
見に来てほしいけど、恥ずかしいから。







「いおが、来ないでって言ってもいくけどね」




先生は、笑いながらそう言った。



「…お待ちしております…」



「何、その他人行儀な感じ」



その後も、
文化祭の話で少し盛り上がっていた。



ずっと、二人でこんな話をして、
笑っていたかった。




どんなことでも、笑い合えるような、
そんな関係がずっと続いてほしいかった。




「じゃあ、準備頑張って」




「はい。ダンボールありがとうございました」




先生は、手を上げながら
職員室に向かって行った。





先生の後ろ姿は、あまり見たことがなかった。






でも、その後ろ姿もかっこよかった。






「いお…」


「!?」



突然、名前を呼ばれ振り向くと、
翔太が立っていた。






「…いおのこと、名前で呼んでるんだ…」




なんて返答すればいいのか分からなかった。






違う。





どう返答しても、
翔太は傷つくと思ったから。





だから、
今、一番翔太には知られたくなかった。




「…準備戻ろ?」




翔太は、必死に笑顔を作っていた。




「…ごめんね…」






今の私には、謝ることしかできなかった。
いつも苦しめてごめんね。




「…違う、違うから…。



俺は分かっていたはずなのに。



…なのにごめん



…いおは何も悪くないから……俺が」




翔太が、こんなにも辛そうに話したのは、
私が先生の気持ちを翔太から聞かされた時だ。



結局、私が苦しめているんだから、
私が悪いんだよ。






「どっちも悪くないよ」






突然声がしたと思うと、
そこには日向が立っていた。




「…二人とも好きな人に真っ直ぐなだけじゃん。なのに、自分が悪いみたいに言って



…誰かを苦しめない恋愛なんて、
ないに決まってるじゃん」







「…どうして、お前が泣いてんの?」






「私だって分かんないよ」




3人とも泣いていることが、
少しおかしくて、
みんなで顔を見合わせて笑った。






「俺さ、もういおに気つかうのやめるわ」



「どうゆうこと?」



理解できなかったけど、日向が聞いてくれた。




「俺が気持ちを伝えることで、いおを苦しめんのかなって思ってたんだけど、柴咲先生といおが仲良くしてんの見て腹立った。

だから、
もう自分の気持ちを抑えるのはやめる」




「…いいね〜、
もういおが困っちゃうぐらい
ガツガツ行きな!」





そんなことで笑い合っていたけど、私は日向が一瞬見せた表情を見逃さなかった。



翔太が私に気を使うのをやめると言った瞬間に見せた、悲しそうな表情を。




その時、確信した。




きっと日向は、翔太が好きなんだと思う。




それを今まで全く気づくことができなかった。



私が翔太と仲良くしてること。
翔太に告白されたこと。
夏休みに二人で、花火をしたこと。



全部日向は知っていた。





何も知らない私が相談なんかしたから。







「いお、どうしたの?」


日向と翔太が私の方を見ていた。







私は知らないうちに、日向まで傷つけていた。





大好きで、大切な友達なのに。







「…なんでもない」




でも、日向が言ってくれた、誰も悪くない。



誰かを苦しめない恋愛なんてない。



私は、その言葉に救われた気がした。
だから、笑顔で二人のいるところまで走った。




作り笑顔なんかじゃない。




きっとこれからも、翔太と伊月くんが私を好きで、日向が翔太を好きである限り、私はみんなを苦しめると思う。



それでも、自分の気持ちに嘘をつく方が、
もっとみんなを苦しめることになるから。



だから翔太と同じで私も、もう気を使わない。





「…日向も好きなら好きって伝えなよ」




私は、翔太に聞こえないように、
日向に伝えた。





「え、どうして!?てか、違うよ?」




「いいよ、もう分かってるから」




私がそう言っても、否定し続ける日向。



でも、身体は正直で、
日向の顔は少し赤くなっていた。




「…絶対に言わないでね?」




でも、最後は結局認めたみたいだった。




「言うわけないじゃん。
私は、日向を応援するから」




「…ありがとう。
でも…もし、榊原くんのこと、好きになった時は、私のことは気にしなくてもいいからね?」





最後の最後まで私のことばっかり。
だから私も日向に伝える。








「日向…私、一途だから」







「そっか」



高校生活で先生以外を好きになれない。


振られても、他の人を好きになれる
自信がなかった。




先生以外を好きになる自信がなかった。



いつも、先生のことばっかりで、
こんなに人を好きになったのは、
初めてだったから。