もうすぐ、一学期が終わろうとしていた。
「いお!聞いた!?」
「何が?」
「今日から転校生来るんだって!」
「そうなんだ〜」
「え、全然興味ないじゃん」
ないよ。
私は、先生以外に興味ない。
日向が言うには、
男の子で身長が高く、相当イケメンらしい。
「…榊原君とまだ話してないの?」
「…うん…」
ずっと後回しにしていた。
聞くのが怖かった。
だから、私は逃げていた。
そうしているうちに時間が経って、
翔太と話すことも無くなっていた。
「いお、夏休みに入る前に話しなよ?」
「分かってるよ…」
今日の放課後にちゃんと話そう。
「皆さん、席についてください。
今日からクラスメイトが増えます」
緑川先生がそう言うと、
男の子が入ってきた。
その瞬間、女子たちが騒ついた。
日向の言っていた通り、
かなりのイケメンだと思う。
「おはようございます。
成川伊月です。
よろしくお願いします」
「成川君は、
七瀬さんの後ろの席に座ってください」
そう言うと、成川君は私の横を通り過ぎた。
「よろしくね、いおちゃん」
「!?」
成川君は席に座る瞬間、
周りにバレないようにそう言った。
無視するのも失礼だと思い、
一礼だけしておいた。
「では、今日も一日頑張ってください」
先生がそう言うと、いつものように、生徒は席を立ち、静かだった教室は楽しそうな声で溢れる。
翔太の方を見ると、机に顔を伏せていた。
放課後話したい。
言うのは今しかない。
もう逃げない。
そう思って、席を立ち上がった時、
「いおちゃん」
後ろから突然、
声をかけられて、振り返った。
「…何?」
「何もないけど、なんとなく?」
そう言って笑う成川君は、
どこかしゅう君に似ている気がした。
でも、今は翔太と話したかった。
「…ごめんね」
一言そう言って、私は翔太の席まで行った。
「…翔太、放課後時間ある?」
「…話?」
「…うん、いいかな?」
「いいよ」
「ありがとう」
そう言って、私は席に戻った。
「…仲良いの?」
「え、まぁ、そんな感じ?」
「ふーん」
成川君は、聞くだけ聞いといて、
全然興味がない感じだった。
成川君は、
女子からとても人気になっていた。
女子の中では、翔太派か成川君派か。
そんな話題で盛り上がっていた。
当然、私はその中には入れなかった。
女子に冷たい翔太が、唯一私にだけは優しくするから、みんなに羨ましがられる。
それだけならまだいいけど、
中には陰口を言っている子もいる。
でも、私には関係ない。
私は翔太のこと、
友達としては大好きだけど、
恋愛感情は持っていなかったから。
だから、周りにどう言われても
気にしなかった。
「席着いて〜」
そう言いながら、
教室に入ってきたのは、先生だった。
私は、驚きを隠せていなかったのか、先生は私と目が合うと、少し笑っていた。
先生が少し笑っただけなのに、
私の胸は勝手に高鳴った。
「来週、二学期からの英語の授業を分けるためのテストを実施します。
今、下のクラスの人は、上のクラスに行けるチャンスなので、ぜひ頑張ってください」
その瞬間、先生と目が合う。
そして、先生は微笑んだ。
一瞬目が合っただけなのに、
私に頑張れって言われてるみたいで、
嬉しかった。
みんなはテストをするのが嫌で、
文句ばかり言っていたけど、私は違った。
このテストでいい点数を取れれば、
先生の授業が受けられる。
それだけで、頑張れるから。
一学期は色々あって入院して、ほとんど授業を受けていなかったから、変わらないかもしれないけど、それでも、私は先生の授業を受けている生徒に嫉妬していた。
(いお、チャンスだね!)
日向が、口パクでそう言ってくれたので、
私は笑顔で頷いた。
「…好きなの?」
「え!?」
後ろから、成川君が小さな声で聞いてくる。
「…榊原君のこと」
成川君がそう言った瞬間、
私は安堵のため息をついた。
私は先生のことが好き。
日向にはバレたけど、
これだけは誰にも、知られてはいけない。
「…好きだよ。
でも、恋愛としてとかじゃなくて、
友達としてだから」
「本当!?よかった〜」
成川君は、さっきまでのテンションの低さは、どこにいったのかと思うぐらい、元気になった。
でも、どうしてよかった、なんだろう?
その一瞬の疑問は、
先生と目が合った瞬間に消えた。