私は、先生が助けに来てくれた後、
安心して眠ってしまっていた。
「失礼します。七瀬はどうですか?」
「…病院で見てもらたほうが、
いいかもしれませんね」
「…後で、連れて行きます」
「先生、お忙しいのにいいんですか?」
「はい。それに保健室に先生がいない方が、もし誰かが怪我をした時、大変だと思いますよ」
「それはそうですね。では、お願いします」
「はい。じゃあ、また来ます」
そう言って、先生は保健室を後にした。
私は先生との約束を守れなかったのに、
先生は守ってくれた。
私は、先生に助けられてばかりだね。
そんな事を考えているうちに、
一限目が終わった。
授業が終わってすぐ、
日向が保健室に来ていた。
「いお、本当にごめんね。
私、てっきり仲のいい先輩だって
勘違いしちゃって」
「もう謝らないで。私は大丈夫だから」
「…榊原君も誘ったんだけどね、
連れて来れなかった」
翔太…。
今度こそ、ちゃんと話さないとね。
「日向、ありがとう」
その後、先生が保健室に来て、
私は先生と病院に向かった。
「…ごめんな」
静かな車内で一言、先生が言った。
「…ありがとうございました」
謝らないでよ。
先生は私を助けてくれた、
それだけなのに、どうして謝るの?
「…先生。
私…先生との約束、破っちゃいました」
「約束?」
「…何かされる前に、言えって言ってくれたのに…私は、先生が助けに来てくれるのを待ってるだけで…。
私は、約束破ったのに、もう一つ先生が言った、俺が守るって言ってた約束を守って欲しいって、願ってたんです」
図々しい。
そんな自分が嫌いだった。
なのに、先生が来た時、一番に思ったことは、ごめんなさい、じゃなくて安心だった。
「…いおは、
俺に言う前に連れて行かれたんでしょ?
なら、それは仕方ないことだし、
俺はいおを守るって約束したわけじゃない」
「え…?」
「ただ俺が…
いおを守りたかっただけだから」
そう言いながら、
微笑む先生はどこか悲しそうだった。
「…だから気にしなくていい。
それに、教師が生徒を守るのなんて、
当たり前でしょ?」
教師が生徒を守る…か。
私と先生は、教師と生徒。
それ以下でも以上でもない。
分かっていたけど、大好きな人に直接言われるのは、やっぱり胸が苦しくなる。
でも、先生のおかげで、
これ以上苦しまなくていい。
しゅう君との約束を守れたのも、
先生のおかげかもしれない。
全部、先生がいたから、
私は少し強くなれた。
…だから先生。
これからも、私のそばにいてください。
私、先生がいないと何もできないから。
卒業するまででいい。
ずっと私のそばにいてください。
私は心の中で願った。
「…部活決めたの?」
「…何かには入りたいんですけど、
何がいいですかね?」
バレーボールをしようって思っていたけど、
さっきのことがあってから、
入ろうとは思わなかった。
「…男子サッカー部のマネージャー、
興味ない?」
「…マネージャーですか?」
「そう、いなくて困ってるんだよね。
もし良かったら考えてみて」
「…はい」
男子サッカー部。
顧問は先生。
それだけならやりたい。
でも、翔太もいる。
私が行く事で、
翔太の邪魔になるならしたくない。
最終的に、二学期が終われば、
本格的に部活動が始まる。
それまでに決めた人は、
夏休みから始まっていく。
だから、この夏休みに
翔太にも話して決めようと思った。