体育祭が終わった次の日、
私は布団の中で考えていた。



月曜日に学校があるから、
それまでに決めないといけない。




「いお!いつまで寝てるの?
暇ならさ、遊びに行こうよ〜」



そう言って、布団を剥がしてきたのは莉乃だ
った。


私は、遊んでいる場合じゃないって言おうと思ったけどやめた。


気分転換にリフレッシュするのも大事。

それに、莉乃に相談してみるのも、アリだと思った。


「…どこ行くの?」


「え!いいの!?じゃあ散歩しに行こ!」


「…散歩?」



「気分転換になるよ」



…散歩か。



私は入学する前に、家の周辺を散歩していて、先生に会ったことを思い出していた。


「ね!いいでしょ、散歩!」


「…うん」


「やった!じゃあ、10分後に集合ね」


「…10分!?早すぎない!?」


「いいじゃん!早く行くよ?」


私は、先生に会った時の服装を思い出していた。流石に同じ過ちはしたくない。
だから、私は急いで準備した。



「いお、遅いよ〜」


「ごめんね」


私は薄く化粧をして、長い髪を緩く巻いた。


先生に会えるかなんて、分からないのに、
気合いを入れてしまった。


それに、先生に会ったとしても、
私から先生を突き放してしまったから、
二人でなんて話せない。



「じゃあ、行こ?」


「うん」


私たちは寮を出て、
少し離れた場所にある公園に来た。

ここの公園は人通りも少なく、
小さい公園だから、人も少なかった。



「…莉乃、ちょっと相談したいことがあって」


「うん、そうだと思った」


私は、莉乃に昨日の出来事を全て話した。
翔太に告白されたこと。
先生を突き放してしまったこと。


「…いおはさ、どうしたいの?」


「私は…翔太の告白は断りたい。

だけど、今までの関係が壊れるんじゃないかって思うと…怖い。
だから、どうすればいいか分からない」



翔太は、自分の想いをちゃんと伝えてくれた。

でも、私は出来なかった。


「本当に大事だと思うなら、
伝えたほうがいいよ。

自分の気持ち」



そう言う莉乃は、真剣な眼差しだった。



「…好きな人に告白して、
変に期待させられる。
それ以上、辛い事はないよ。
それだったら、
初めから振ってほしいって思う」

そう言う莉乃は、どこか辛そうだった。

多分、昔のことを思い出したのかもしれない。

私は今、先生に会える。

でも、莉乃はもう会えない。

だから、たまに私が相談する事で、梨乃を苦しめてるんじゃないかって思う時がある。


「…そうだよね。
私、ちゃんと翔太に伝える」


「うん、頑張ってね」


「ありがとう、莉乃」



私はこの街に来て、
本当にいい人たちに出会ったと思う。


莉乃、日向、翔太。


そして、先生。



私には、この出会いが奇跡のように思えた。



当たり前のように、毎日会う。
でも、これは当たり前なんかじゃない。
だから、大切な人には、嘘をつきたくない。


翔太とちゃんと、向き合わないといけない。


そう思わせてくれたのは、莉乃だった。

逃げる事は悪い事じゃない。
でも、逃げるだけじゃいけないって言われたみたいだった。



「いお!コンビニでアイス買お〜」

「うん」


莉乃は、さっきとは違う表情だった。


きっと、莉乃は本当に先生が大好きで、
大切な人だったんだね。

だから、その人のためにも、
離れる決意をしたんだよね。

かっこいいよ、莉乃。

私は莉乃に出会えて、
昔よりもずっと強くなった気がする。
莉乃には敵わないけどね。


「早く行こ!」

私はその言葉に笑顔で頷いて、
莉乃のところまで走った。