「次は女子リレーです」



体育祭が始まって、終盤に差し掛かった時、アナウンスが流れた。


「みんな頑張ろう!」


日向がそう言うと、みんなが一斉に頷く。


何度も練習したから大丈夫。


きっと上手くいく。




「位置について、よーい」




そして、スタートを合図するピストルが
なり、一斉に走り出した。


出だしは、日向が先頭で順調だった。


その後も、みんなバトンを繋いで走る。

そして、私もバトンをもらい走り出した。


一番でバトンを受け取り、すぐ後ろから他のクラスの子が、迫ってくる。


その時だ。




「いお!走れ!」



顔は見えなかったけど、声ですぐわかる。


翔太だ。


そして、ゴール付近には先生が立っていた。




先生が視界に入った瞬間、私は思い出す。





(いおが決めたことなら俺は応援する)




先生が言ってくれた言葉が、
私の中で響いた。
そして、昨日先生と話したことも。



(先生、私たち一位取りますね)

(ちゃんと見とく)

先生はそう言ってくれた。



私には仲間がたくさんいる。


それに、一番応援してほしいと思っている先生も、きっと応援してくれている。




そして、ラストスパートで私は思いっきり走り、一位でゴールした。




「いお!一位だよ!」



そう言って、
抱きついてきたのは日向だった。


その後、紬ちゃんと香織ちゃんも来て
一緒に喜んだ。


ふと先生の方見ると、口パクで
(おめでとう)
って言ってくれた。

だから、私は笑顔で頷いた。



「次は男子リレーです」



女子リレーが終わってすぐ、
アナウンスが入った。



「翔太!」


私が呼ぶと、翔太は振り返る。


「頑張ってね」


「おう」




そして、男子も見事に一位を取った。


その後も種目は続き、
高校初めての体育祭は無事に幕を閉じた。






私にとって始めは、不安が大きかったけど、みんながいたから、その不安を楽しさに変えることができた。


本当にみんなには感謝している。



みんな、ありがとう。



「いお〜」

「どうしたの?そんなに表情緩めて」


日向はニコニコしながら私のところに来た。


「榊原君から鉢巻もらったの?」

「も、もらってるわけないじゃん」

「え!もらってないの!?てっきりいおに渡したのかと」


「だから、そうゆうのじゃないって」


私たちの学校では、好きな人に鉢巻を渡す
のが恒例らしい。
だから、日向は翔太が私に渡してると思ったらしい。



「あ!榊原君、鉢巻誰にも渡さないの?」



「…どうして?」



「好きな人に渡すのが、うちの学校の恒例行事みたいなものだからさ」





「…はい」




「え?」





日向がそう言うと、
翔太は私に鉢巻を渡してきた。



「…どうして?」








「…いおが好きだから」



翔太がそう言った瞬間、
教室にいた女子が騒ぎ出す。


そして、それを聞きつけた他のクラスの人たちも、私たちの教室の前の廊下に集まった。



翔太は、
入学式の時から女子に人気があったらしい。

だから、私は一部の女子に白い目で見られていた。



「…えっと」





「今、返事はしなくていい。


…ただ俺の気持ちを
知っておいて欲しかっただけだから」



私が返事に困っていると、
翔太は微笑んでそう言ってくれた。



私は先生が好きだから、
翔太には、はっきり断らないといけない。


でも、断ったらもう翔太と、今までのように話したり、笑ったり出来なくなるんじゃないかって思うと、怖かった。




翔太は、友達として大好きだから。



「…ごめん」



今は、これしか言えなかったけど、
必ず返事をするから、
もう少し待って欲しい。

その意味を込めて、翔太に謝った。



翔太は微笑みながら頷き、
教室を出て行った。




「どうして、返事しないの?」

「翔太君がかわいそうだよね」

「なんか生意気だよね、あの態度。
せっかく告白してくれてるのに」



翔太が教室から出ていくや否や、私を嫌う人たちが、次々と話し出した。


分かってる。


たとえ、私の悪口を言っていたとしても、その人たちの言う通り、私は翔太に酷いことをしている。



だから私は、
顔を上げることができなかった。



「…いお」


日向に呼ばれて気づいた。

また私は泣いていた。


「榊原君はさ、別に返事しなくてもいいって言ってたから、いおは何も悪くないよ」



優しい口調で話す日向。

でも、悪いのは全部私なのに、こんなことを日向に言わせたのが申し訳なかった。






「早く教室に戻れよ」



1組の教室に人が集まっていたから、
先生が様子を見に来たらしい。



しかも、よりによって柴咲先生だった。



「…ごめん」



「え!いお!?どこいくの!?」



私は人混みを掻き分けて、教室を出た。




「七瀬さん!?」




先生が私を呼んでいたのも
無視して、走った。



今は一人なりたかった。



気づけば私は屋上まで走っていた。




「いお!」


「!?」


屋上に来れば、少しの間だけでも一人になれるって思っていたけど、私の後を先生が追いかけてきた。



「…どうして泣いてるの?」



「…泣いてません」


そう言って涙を拭った。



「…何があったの?」


先生は私の隣まで歩いてきた。


「…別に何もないですよ?」



そう言って、
無理やり作った笑顔を先生に向ける。



「いお…無理に話せとは言わないけど、俺の前ではさ、辛かったら泣いてもいいから」




そうやって、いつも優しく接して来る先生が、大好きだから、他に好きな人が出来ないんだよ。


それでも、もう先生に泣いている姿なんて見せたくない。


だから、私は顔を隠そうと下を向いた。



そして、
先生に冷たい口調で言っちゃったんだ。







「先生には…関係ないです」






先生は、私に優しく接してくれたのに、
それを突き放すように。



一番、先生にだけはしたくなかったことを
してしまったんだ。



そして、先生に背を向けて歩き出した。




もうこうやって、先生と二人で話せなくなったとしたら、全部私が悪い。


私が突き放したりしたから。




ごめんね、先生。




そして、私は屋上を後にした。