「…大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
私たちは、体育館の裏にいた。
ここなら誰にもバレないと、
翔太が言っていた。
「別に。
…俺はサボりたかっただけだし」
翔太は嘘が下手なんだね。
「何があったのかは聞かねぇけど、相談になら乗るから。
だから…あんまり一人で溜め込むなよ」
そう言ってくれる翔太の方を見ると、
耳を真っ赤にしていた。
「翔太」
「…何?」
名前を呼ぶと、照れ臭そうにする翔太。
翔太には先生のことを言えなかったけど、
本当に感謝してるよ。
だから私は翔太に、言ったんだ。
「ありがとう」
この一言だけど、もう心配させないように、今の私に出来る精一杯の笑顔で。
その後、私たちは一限だけ授業をサボり、
次の授業の時には教室に戻った。
「いお、大丈夫?」
「うん、大丈夫。なんかごめんね」
そう言うと、日向は首を横に振った。
「私でよければ、いつでも相談乗るよ?」
「ありがとう。でも、大丈夫」
そう言って私は席に戻った。
大丈夫って言い聞かせているだけで、
大丈夫じゃないことぐらい
自分が一番分かっていた。
ふとした時に先生のことを考えて、
泣きそうになる。
でも、みんなに迷惑だけはかけたくない。
だから、もう先生のことは忘れよう。
先生にも、大切な人がいるんだから、
私が入る隙なんてない。
だから、もう
終わりにしよう。
そうやって、
自分の気持ちに嘘をついていた。
先生のことを諦めるなんて、
できもしないのに。
自分のことは、
自分が一番分かっているって思い込んで。
でも本当は、
何も分かっていなかった。
この苦しみを溜め込んで、
いいことなんて何もないのに。
その苦しみに気づかずに、
ただ自分を自分で苦しめていた。