入学式は無事終わり、私は
みんなが帰って静まり返った、教室にいた。



私は、自分の席に座り目を瞑る。



そして、これから、
教室で生まれる音を想像した。



みんなが朝登校して、話している声。



先生達が、授業をしている声。



授業中に発言している、生徒の声。



先生達の怒る声。



みんなが笑っている声。



そして、






大好きな先生の優しい声。






「いお?」


「!?…先生?」


突然声を掛けられて、
振り向くと先生が教室にいた。


「何してるの?」




先生はいつもこうやって、
優しい声で、私に話しかけてくれる。


それが、何より嬉しかった。

「音を聞いていたんです」

「音?」

「はい。これからこの教室で聞く音です」


そう言っても、よく分からない、
そんな表情をする先生は可愛かった。


「分からなくていいですよ」



笑いながら言うと、先生は苦笑する。



でも、先生は優しいから、
どんな事でも理解しようとする。




だから、先生は聞くんだ。







「詳しく教えて」


そう言いながら、私の隣の席に座る。



好奇心を持つ先生の目は、キラキラしていて、子供みたいだった。



前に一緒に行った、橋の時みたいに。



「目を閉じて、想像するんです。


この教室で、どんな音が聞こえるのか」



「想像…」

そう言うと、先生はそっと目を閉じた。



先生の横顔は前、車に乗った時に見たけど、目を瞑っている姿は、初めて見た。



まつ毛が長くて、
スッとした鼻筋が通っている先生は、
とてもカッコよかった。



「生徒達が話す声。


先生達が授業する声。


怒っている声。


笑っている声」



そう言って、また私も目を閉じる。   



「いいね」

「え?」



先生の方向を向くと、 
まだ先生は目を閉じていた。




「…分かりますか?」

「うん」



嬉しい。

先生は、どんな音を想像しているんだろう。



きっと、
生徒思いの先生のことだから、
生徒達の声だろうな。




そう思いながら、もう一度目を瞑る。



この時、先生が、
私を見ていたことも知らないで、




ただ先生の優しい声を想像した。