正門をくぐると、沢山の生徒で溢れていた。
私は、その人混みを掻き分け、
昇降口に向かった。
「お名前をお願いします」
「七瀬いおです」
「七瀬さんですね。1組になります。
階段を三階まで上がって、一番奥の教室になります。黒板に座席表があるので、その席に座ってください」
「ありがとうございます」
私は、そのまま階段を登り、教室に入った。
教室には、まだ誰もいなかった。
1年1組26番。
座席を確認して、荷物を下ろし座った。
静まり返った教室。
外から聞こえる生徒の声。
何も考えないで、ただ教室を見渡す。
窓からは中庭が見える。
「綺麗…」
そう言いながら、
視線を青く広がる空に移した。
「…先生?」
屋上に、先生らしき人が見えた。
先生と話したい、そう思った瞬間、
私は教室を出て、屋上まで走っていた。
「先生!」
「!?…いお?」
「おはようございます」
「お、おはよう。
…え、
どうして、ここにいるのが分かったの?」
「教室から、先生が見えたので」
そう言いながら、教室の方に指を指す。
教室には、もうたくさんの生徒が入っていた。
「ちょっ、こっち」
「え!?」
急に手を引かれたため、
バランスを崩してしまった。
「っと、危ない」
先生が支えてくれたので、こけずに済んだ。
とはいえ、今までにないぐらい、
先生と距離が近かった。
「大丈夫?」
「え、あ、すみません」
そう言って、すぐに先生から離れた。
その後、私たちの間で沈黙が続いた。
でも、私の鼓動は、
この沈黙とは真逆で、とてもうるさかった。
だから私は、
先生に聞こえないように、少し離れた。
「ここにいること、
先生や生徒にバレたら面倒なんだよね」
先に話し出したのは、先生だった。
そっか。
だから、さっき生徒に見られると思って。
「でも、
ここにいるのがバレたのも、
ここに来たのも、
いおが初めてだよ」
「!?」
私が初めて…。
嬉しかったけど、
なぜか申し訳ない気持ちにもなった。
だって、ここは、
先生の隠れ家みたいな感じだったんでしょ?
「まぁ、ここ屋上だから、
校則的に来たらダメなんだけどね。
あ、だから誰にも言っちゃダメだよ」
この時先生は、
もう来るなとは、言わなかった。
なら、また来ていいの?
そう思って、少し喜んでいたのも束の間、
先生はどこか、
辛そうな表情をしているように見えた。
それがどうしてか、
聞きたいけど、聞けなかった。
触れてはいけない気がしたから。
「先生、今ここで、何をしてたんですか?」
「…考え事…かな?」
そう答える先生は
やっぱり辛そうに見える。
そんな先生を見るのは初めてで、
何かいい言葉をかけてあげたい。
でも、私にはそんな言葉は、浮かばなかった。
「…無理しないでくださいね」
「え?」
「じゃあ、私は教室に戻ります」
こういう時は、
一人にした方がいい気がした。
私も考え事をするときは、
一人の方がいいから。
「いお、ありがとう」
なんのお礼かよく分からなかったけど、
一礼だけして、その場を去った。
