オージさまはマテができない



 だから私のことは放っておいてくれたらいいのに、無邪気なワンコはふわふわの髪の毛を揺らして首を傾げた。はいはい、かわいいかわいい。


「なんで? 自分の恋愛は成就しないの?」

「まじで余計なお世話だよ、別に成就したい恋がないだけ」

「ふうん?」


 正真正銘の本音で返したというのに訝しげな眼差しを送られたので、癪に触った私は眉を顰めて「なに」と促す。すると羽地くんは愛らしい形をした唇の端っこを持ち上げて、心より不思議そうにゆっくり尋ねた。
 

「あのさあ、人生たのしい?」

「たのしいですけど?」


 失礼にも程がある。そりゃあ羽地くんみたいに綺麗な顔をしていたら人生もっと楽しいだろうけど、私は私で楽しんでいるよ。

 しかし、鈍感な彼はそんなこちら側の主張に気付かず随分とえらそうに語り出した。


「僕は好きな子ができてから人生が二十倍も楽しくなったし、好きな子とお喋りするだけでその日一日中ずっと楽しくなるよ。だから恋愛するの、かなりおすすめ」

「あんまりそういう古いこと言わない方がいいよ、羽地くんじゃなかったら許されてないと思う。よかったね、綺麗な顔してて」

「誰にでも言うわけじゃないよ、吉木さんだから言うの」


 まるで私が特別であるかのような言い草だが、ちっとも喜べない。ここ数日で話すようになっただけの関係の人に恋愛を勧められる筋合いはないのだ。


「スナック菓子一袋で説教するつもり?」

「ううん、気を悪くしたならごめんね」


 ふるふると首を振って項垂れる羽地くんは、飼い主に叱りつけられて弱った犬みたいだった。ちらちらと私の顔色を窺ってくるあたり、犬より犬じゃんと思った。