オージさまはマテができない



 なんとしてでも叶えたい恋があるのか、はたまた私とのお喋りを相当気に入ってくれたのか。あれから羽地くんは毎日欠かさず私のところに訪れるようになった。


 クラスメイトたちも最初のほうは見慣れない他クラスの美少年に目を奪われていたものの、四日目あたりから「また来てるじゃん」「羽地くん、ここ寝癖ついてるよ」「なに食べたら背伸びんの?」「スキンケア何してる?」みたいな軽くあしらわれるノリになっていた。

 しかし、美貌を抜きにしても男女ともに好かれているのは確かである。それは羽地くん特有のほんわかしたマイペースな空気感と仔犬並みの愛嬌によるものだと思う。


「ね、僕の好きな人に彼氏がいたらどうしよう」


 久しぶりに彼の口から恋愛っぽい話を聞いた気がする。私の席の前に腰をかけるのも慣れたもので、長い脚を開いて椅子の背もたれを跨いでいた。

 しかし宗教画の天使みたいな綺麗な顔を良い意味で裏切って成長した長い手脚はいまだ使いこなせていないらしく、たまに机に引っ掛かったりぶつけたりしている。本人も「ぽんこつめー!」と自分の脚を叱りつけていた。自分を小型犬と思い込んでいる大型犬だ。

 そんな羽地くんなので、確かに好きな人に彼氏がいるなんてことも有り得そうだ。無敵の美人さんなのにそういう不憫さが垣間見えるし、そこがいい。


「いるかどうか調べてないの?」

「教えてよ、恋愛神さま」

「私、全知全能じゃないし」

「ちなみに吉木さんは? 彼氏いる?」

「いない」


 間髪入れずに食い気味で答えてしまい、一瞬だけ恥ずかしさを覚えたけれどポーカーフェイスを貫いた。

 他人の恋愛を成就させている場合ではないのだが、とくに焦りもないので仕方ない。彼氏ができるにはその前段階で好きな人がいないといけないし、そんなのいないし。