「まーいいや。昼休み終わりの予鈴がタイムリミットだけど、サイダーぶんくらいは喋って行きなよ」
このきらきらした顔面と子犬みたいな可愛さを見ているだけでじゅうぶんにお釣りが来る。
触ったら柔らかそうな色素の薄い髪の毛を眺めながら雑に促すと、彼は急にもじもじして目を泳がせ始めた。
「あのー、好きな子がいるんですよ」
「ほう、いいね。どんな子?」
「え、気になる?」
「ううん、全然。テンプレに沿っただけ」
首を振って即座に否定すると、彼はムッと怒ってぐるるるると唸った。いやそれはさすがに幻聴だろうけど、いけない、本当に犬にしか見えなくなってきた。
「じゃあ教えない! でも、かわいいよ!」
「かわいい子が好きなんだ?」
「うん、すき。かわいいから好きになっちゃったし、好きになったらもっとかわいく見えちゃう不思議」
いきなりストレートに平然と言ってのけたので、ロマンチックの高低差に私は意表を突かれてしまった。
うん、やっぱり王子様に見える。あと、試しに告白もしたくなるのも分かる。みんなの憧れを一身に浴びながらも絶妙な距離感で、私だけには手が届きそうだとその気にさせてしまう魔力がある。
「そういうこと言うんだね、意外」
「こういうこと言う男、吉木さんはきらい?」
「きらいじゃないけど、せっかくなら私じゃなくて本人に伝えたほうがいいとは思う。羽地くんに直接言われたら、もともとは興味なかったとしてもその瞬間から好きになっちゃうよ」
「じゃあ吉木さん、僕のこと好きになった?」
だめだ、話が通じない。水分をたっぷり含んだ瞳でこちらを見つめる姿には容貌の美しさ以外に王子様の面影がなかった。やっぱり仔犬だ。もこもこのトイプードル。それにしてはデカいか。
ただとびきり顔が良いので、それだけは見慣れることがない。気を抜けば「あー顔がいいなー」と溢してしまいそうで危ない。とはいえ、それとこれとは別である。
「私に向かってじゃなきゃ、さすがにならないよ」
「じゃあ、どうやって伝えたら好きになる?」
「そんなの聞かれても困る。私はただ話を聞くだけ、科学的根拠とか実用的なアドバイスはゼロでやってるの」
返す刀で斬り捨てると、彼はぷんすか怒って「ケチ」と苦々しく言い返してきた。なるほど、儚げな透明感のある美貌を裏切って、彼は単なるお子様男子高校生であるようだ。年相応でかわいらしいけど、相談の質が圧倒的に女子よりも低い。
「気に入らないならお帰りください。ほら、サイダーもあげるから。ケチじゃないでしょ?」
「そのサイダーは僕が吉木さんにあげたやつだし。あと、まだ帰らないし」
いや帰れよ、と言いたいのをぐっと堪えた大人の私を称賛するかのようにお昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。遠巻きだったりすぐそばだったりから羽地央慈の恋愛相談に聞き耳を立てていたクラスメイトたちもぞろぞろと自分の席に戻ってゆく。
「楽しかったからまた来るね!」
いや来るなよ、と言う余地もなく我が校の王子様ことでっけ〜仔犬は自分のクラスへと帰っていった。
羽地くんならどうせ成功するだろうから、さっさと告白してほしい。そうすれば吉木春呼の恋愛成就率がまた上がるし、羽地くんに告白する子が減るので失敗率はぐんと下がるはずだ。



