辿り着いた下駄箱にはすでに長身の美少年が壁に寄りかかって立っていた。陽が落ちてきた校内で伏し目がちに佇むオージくんは美術品になる美しさだったのでしばらく見守っていたかったが、そうもいかない。
「春ちゃん!」
私を見つけて駆け寄ってくる姿はやっぱりデカい犬だった。背の高い彼は屈んで私に視線を合わせ、至近距離から窺ってくる。
「どうしたの?」
なんとなく自分の表情に翳かげりがあると自覚はしていた。でもそこには決定的な要因は無く、具体的に説明するのも難しい。
「どうとか、ないけど」
「そう? じゃあ、手ぇ繋ぐ?」
「いや、その場合の『じゃあ』って何よ」
「ふはは、春ちゃんっておもしろすぎ」
「どこが?!」
もちろん手と手は繋がず、私たちは校舎から出てきた。こうして二人で並んで歩くのは初めてだったので言い表せないむず痒い気持ちになる。
高い位置にある横顔をちらり盗み見ると、整った顔はまっすぐこちらだけを向いていた。私みたいに不思議と浮き足立つ気分ではなさそうで、ただただ幸せそうにるんるんとスキップするような足取りである。これは犬の散歩だと思い込むことにした。
「オージくんってあんまり人から嫌われないよね」
「そ? 嫌われるときもあるよ」
「オージくんのこと嫌いな人、学校にいるかなあ」
「いるよ、いるいる! むしろ春ちゃんのほうがいないじゃん。さっき教室でも思ったけど、みーんな春ちゃんのこと好きだもん」
「オージくんって、人から嫌われるの怖くないの?」
「嫌われたくないけど、僕のことを嫌いな人に好きになってもらうのは難しいから諦めた。でも、僕が好きな人にはなるべく嫌われたくないなあ」
「私にも、嫌われたくない?」
「春ちゃんは特別だからぜーったい嫌われたくないけど、春ちゃんは誰のことも嫌いにならなそうっていう妙な安心感がある」
「なに、それ」
「春ちゃんって誰とでも同じ対応っていうか、みんなに平等じゃん。僕にもそうだから、好きになっちゃった」
思えば、動機を聞くのは初めてだ。こういうときは平然としているオージくんの傍で、私はぐわっと体温が上がり照れくさくなっていた。



