オージさまはマテができない


 青かった空がピンクがかった紫色のグラデーションに塗られ始め、そろそろ帰ろうかという空気が漂ってきた頃。みんな自分の席に戻り、オージくんも一旦自分のクラスに戻っていった。

 鞄に教科書を雑に詰めて下校支度をしていると、隣の席の友人が私に声をかける。
 

「やっぱ恋愛神だね〜」


 ずっと肺の奥でもやもやしていたそれを指摘され、私はもやもやごと吐き出すように深いため息をついた。


「そのことなんだけどさ、私、調子乗るのやめるよ」

「うん?」

「恋愛神を騙る資格がないもん。オージくんに告白したいって子が来たら、素直に応援できないし、これまでのことを色々考えるとあんまり良くないなーって気がするし」


 成就を願うそぶりを見せていた、いや実際に願っていなかったわけではないのだが、そんなことが何度もあった人と自分がちゃっかり結ばれるのはあまりにも図々しいというか。後ろめたさは感じざるを得ない。

 羽地央慈に告白すると決意した女の子たちの背中を私は何度も見送ってきたし、その子からいくつものお菓子やらジュースやらを受け取ってきた。

 しかし、どんどん落ち込みそうになる私を鼻で笑った友人は、「いやいや、吉木春呼ってほんとに恋愛神だったんでしょ」と乾いた声で救い上げる。


「え、」

「みんなの恋愛を成就させてきたうえに、自分はうちの学校の王子様と結ばれちゃうんだから」

「そ、そーゆーもん?」

「そーゆーもんよ。みんなが春呼のところにいくのは春呼に期待したおまじないっていうよりも、一種の恒例行事みたいなもんだし」


 荷物を詰め込み終えたリュックを背負い、制服の裾を整える。話したおかげでだいぶ心が軽くなったので重たいリュックも平気だった。そんな私をゆっくり眺めて、友人が急所を指摘する。


「意外と春呼ってさ、人から嫌われるのを恐れすぎてるよね」

「あーばれた?」

「きらわれたくないのは完全に同意だけど、最悪の場合きらわれてもいいやっていう心構えも生き抜くコツよ」


 さすが四月生まれは大人だわ。ご教授いただいた私は「どーもね」と軽くあしらい、オージくんと待ち合わせた下駄箱に向かった。