オージさまはマテができない



 にやにやと全身を刺してくる視線たちは見て見ぬふりして、私は飼い主らしくふざけて尋ねた。掴まれた手からじわりと熱を帯び、甘い痺れが血液を循環して広がっていく。


「いちたすいちは?」

「わん!」


 元気よく吠えて応える愛犬オージくんを前にして、私はすべてがどうでもよくなってしまった。動物セラピーって即効性がすごいな。


「ごめん、私が話を止めちゃったね? 気にせず続けて」

「んーん、大した話はしてない。羽地くんが春呼を待ってるって言うからみんなもついでに喋って待ってただけだよ」

「そうだったのか、ありがとうね」


 私がお礼をすると、みんなは「楽しかったからいいよー」と返してくれた。この人たちに生卵を投げつけられたらあまりにつらいので、最も大きな問題だけでも片付けることができてよかった。

 脱力して疲労を滲ませた私と私をじっと見つめて浮かれているオージくんを見比べたクラスの友人が「ふたり、そんなに仲良かったんだねえ」と言った。

 慌てて握られた手を振り解き、激しく首を振って否定する。


「いやいや仲良いっていうほどじゃ、」

「え!」

「まあ、仲良い、かなあ?」


 すると心から悲しむような顔をされたので居た堪れなくなり、曖昧な肯定に変更した。その様子を見ていた親しい友人が「異常に懐いてるってかんじか」と簡潔に察してくれたので大きく頷いた。