すると、黙って傍観していた三村くんが「あのさー」とようやく口を挟んできた。

 自然と声の方に視線を向けると、彼は小さいパックのコーヒー牛乳を持っている。改めて見ると、リカちゃんもいちごオレのパックを持っていた。

 三村くんがリカちゃんを慰めるために購入してきたもので間違いないと思うのだが、吉木春呼には脂っこいカレーパン、リカちゃんにはピンク色のいちごオレというあたり、やはりこの男にはデリカシーが不足している。まあね、カレーパンのほうがうれしいですけど。


「俺はリカちゃんと吉木の喧嘩なら、どんなにリカちゃんに非があれどもリカちゃんの肩を持つつもりだよ。でもね、これだけは言わせてほしい」


 真摯な姿勢でリカちゃんと向き合う三村くんのせいで、しっとりした空気感が漂ってくる。リカちゃんもリカちゃんで彼の眼差しを受け入れており、どうやら私の存在はいったん無いものとして扱われているらしい。

 そんな私だけが居心地の悪い体育館裏で、少年は話を続ける。


「リカちゃんが羽地くんに告るって知って、俺も焦って吉木に相談したの。だから、リカちゃんがうまくいかないといいなって願っていたのは吉木じゃなくて俺」

「三村くん、それって、つまり、」

「羽地くんは男の俺から見ても確かにすげーかっこいいけど、アレは観賞用でちょうどいいの。忘れろってわけじゃないけど切り替えてさ、俺にもチャンスくれないかな?」 


 照れ臭そうに目線を泳がせる三村くんはロマンスの成分が過剰に分泌されたせりふを吐き、それにまんまとときめいたリカちゃんが「えっ」と頬を赤らめている。

 いや、私! 私、いるんですけど! 意図せず恋愛神が見守っているんですけど!!!

 すっかり二人の世界観に入り込んでしまったので、私は「二人で勝手に幸せになれ!」と負け犬みたいに遠吠えして体育館裏を後にした。

 これでもし、私がオージくんと付き合っていることが知られた際に温厚なリカちゃんが怒ったとしても正々堂々言い返すことに決めた。罪の重さはほとんど変わらないと思う。