「いや、えっと、邪魔しに来たわけじゃなくて」
「邪魔しに来たようにしか見えねえけど?」
「リカちゃん! そう、リカちゃんに話したいことがあってね!」
三村くんからぎろりと睨まれ、腑に落ちないが私は呆気に取られているポニーテールのかわいこちゃんにターゲットを絞った。三村くんのことは許していない。おーい? 私、あなたの恩人ですけど?
「なあに、春呼ちゃん」
「あのさ、リカちゃんって、その、」
言い淀む私を前にして、気を遣ったリカちゃんが結論を先に出してくれた。
「うん? 羽地くんになら振られたよ?」
「ぎゃ!」
「羽地くん、春呼ちゃんのことが好きだから付き合えない〜って謝ってた」
「ぎゃう!」
遠回りに尋ねようとするも失敗して、彼女のほうから最短距離の答えが返ってくる。そして思わず奇声を上げてしまった私に、リカちゃんは追い討ちをかけてきたので再び尻尾を踏まれた猫みたいな呻き声をあげてしまった。
「そ、それを聞いてどう思った?」
「どうっていうか、まあ、いま落ち込んじゃってたのを三村くんに励ましてもらってたところ」
私は彼女の傷を抉りたいわけではない。断じて、そういうわけではない。ただ、私に対する心象を確認しておきたい、あわよくば自分は安心して夜十時には眠りたいだけである。
リカちゃんが私を恨んでいるかもしれない、転じて裏切り者の盗人呼ばわりされて生卵を投げつけられかねないなどと考えていたら、朝方まで目はギンギンに開いてしまう。
そんな私の不安を汲み取ってくれた彼女は、ぽんと手を叩いて首を横に振った。
「あ、わかった! 大丈夫だよ、春呼ちゃんに八つ当たりするほど心は狭くないつもりだし」
「ほう」
「まあ、春呼ちゃんってそういう調子いいところあるよね〜とは思わなくもなかった」
「ごめん!!! ごめんって!!!」
束の間の安堵が吹き飛び、私は頭を下げて安っぽい謝罪を口にする。すみませんね、自分の身がかわいいもので。