それから意を決したように真剣な顔つきになって、私の手を離した。膝の上においた両手を軽く握り、隣に座る私を見つめる。


「春を呼ぶ恋愛神・吉木春呼さま」

 
 改めて聞くと、やはりそろそろ引退すべき名前である。胡散臭いし恥ずかしい。そういえば気付かぬうちに雲が消え去り空が晴れてきて、午後の眩しい日差しが刺さってくる。

 そんなことを考えている間もオージくんは話を進めていた。


「あとで何か奢るからさ、ちょっと恋愛相談にのってくれない?」

「いいよ」

「僕ね、ずっと好きな子がいるんだけど先に進もうか迷ってるんだよね。告白しても、いいと思う?」

「いいんじゃない? 私は責任とらないけど」


 あまりの眩しさに目を細める私を笑ったオージくんは、私のそれよりも二回り大きな手を頭の高さあたりに掲げて日除けを作った。

 そして日光も味方にする美人さんである彼は、白い肌をきらきらと輝かせながら言う。


「責任とってよ、春ちゃん」

「ん」

「ずっと好きです、付き合ってください」


 吉木春呼、十七歳。苦手なものは球技全般、人並みにできるものが大半。得意なのは他人の、そして自分の恋愛を成就させることだ。