オージさまはマテができない


 

 すたすたすたすた、急いている三村くんは早足で進んでいく。私のほうが歩幅が狭いので、隣をついていくのがやっとだ。ほんのり駆け足になってしまう。


「私たちはそれを見に行くの?」

「こっそりね」


 正直、あまり気が乗らない。他人のソレを盗み見るなんてマナー違反だと思うし、どんな気分で見届けたらいいのかも分からない。でも、なぜだか足が止まってくれないので、けっきょく私は中庭まで来てしまった。やれやれ、落ちる地獄は一緒である。

 
 予定通り中庭には、くりんと跳ねるポニーテールのリカちゃんがいた。そして、彼女と向かい合うように王子様みたいなオージくんが立っていた。

 彼らからは死角となるであろう壁の陰に隠れて、息をころす。そんな私の隣で、三村くんは海よりも深い溜息を吐いた。深すぎて溺れるかと思った。


「リカちゃんの好きな奴、羽地かよ」

「羽地くん、いい奴だよ。きらい?」

「いや、マイペースでいい奴だし好きだけど勝ち目がなくてウケるだろ」


 嘲笑をこぼす三村くんが普段よりも大人に見えたので、私は何も言わなかった。ベンチに座ろうとしないオージくんだけが救いだ。

 視線の先ではリカちゃんが何かを語っている。内容までは聞こえないが、照れ臭そうな表情と愛らしい身振り手振りからほとんど伝わった。

 ここまでは予想された展開であるため、意識はその先、オージくんの反応に集中していた。この位置からだとオージくんは後ろ姿しか見えないのだが、あのバランスの良い長身にふわふわの髪の毛、そして独自のゆるっとした制服の着こなしは誰が見ても羽地央慈だとわかる。

 綺麗な顔立ちが見えずとも男子高校生のなかでは群を抜いて洗練されているし、何より、ほっそりした首の裏を困ったように摩る仕草はオージくんの癖だ。

 
 とくにオージくんからの情報は得られないまま、中庭の木陰に立つ二人の時間は過ぎてゆく。妙に心臓が重たくどきどきして、不愉快だった。


 三村くんも私も声も出さずにしばらく眺めていると、二人の話は終了したらしい。ぺこりとお辞儀をしたリカちゃんは、オージくんを置いて走り去っていった。


 ほう、おわった。いつの間にか忘れていた呼吸を取り戻し、私は再びオージくんの意外と広い背中に眼差しを送りつける。