オージさまはマテができない



 なんだか真摯な瞳に見つめられると心があっさり解れてしまい、まあいいかと相手に委ねる気分になってしまった。かわいさを前にしてお手上げだ。


「だめじゃないけど、それなら私はなんて呼べばいい?」

「え! 僕のこと?」

「うん、羽地くんにとって私が友だちなら私にとって羽地くんも友だちでしょ? わかる? ちょっと難しい?」


 ふわんふわんの髪の毛が覆う小さな頭は脳みそもふわふわと軽そうなので、幼い子供に言い聞かせるような口調で話してみた。案の定、羽地くんは「わかるよ!」とぷんすか怒っている。あはは、かわいい。

 それから悩ましげな表情でしばらく私の机に突っ伏した後、閃いた顔をがばっと勢いよく上げて指をぱちんと鳴らした。

 そのテンションで話し出すかと思いきや、今度は視線を泳がせたりと落ち着かないもじもじした様子でこちらを窺ってくる。


「な、なんでも呼んでくれるの?」

「なんでも呼んであげるけど、へんてこな呼ばれ方するほうが恥ずかしくない?」

「じゃ、じゃあさ、オージ、とか」

「オージくん?」


 ただの下の名前であるそれを繰り返すように呼んでみると、彼はハッと息を飲みこんで悶えるように頭を抱えた。


「っ、良」

「良、いただきました」

「よすぎる、さすがに友だちじゃなかったな、今のは」

「友だちじゃなかったら、だめじゃん」

「いいの、いったんね、いったんだよ」


 『いったん』を念押しする羽地央慈に、実のところよく分かっていなかったが「わかったよ、オージくん」と言ってみた。

 彼は嬉しそうに目尻を緩ませ、そのくせ唇は気難しそうにぎゅっときつく結んでいた。だけど机の下に隠した尻尾だけはぶんぶん振っている、と錯覚してしまう。

 動物はあんまり好きじゃなかったしどちらかといえば猫派だったつもりだが、犬の可愛さへの理解が妙に深まるここ数日である。