近所迷惑になるんじゃないかレベルの声が出たがこの際どうでもいい。

目の前にいる彼があのときの彼とは到底思えないが同一人物だという証拠しかない。

「本物って当たり前だろ。逆になんだと思ってんだよ。」

「顔が全く同じ別人?」

そう言うと彼は一瞬びっくりした表情をしたが次第ににやにやし始めた。

人をバカにしたような視線付き。

「顔がおなじ別人って…ばかじゃねぇの」

しっかりばかにしている。

私は恥ずかしさで顔が熱くなった。
確かにそれは無理がある。しかしそう思うくらいに別人なのだ。

「こんな人が王子様なわけないっ」

小声で言ったつもりが相手に聞こえていようでその一言で完全に笑い始めた。

「なんだよ王子様って俺の事そんな風に見えてたわけ?」

「女の子はみんなお姫様だからいつか王子様が現れるって!」

「高校生にもなってそんなこと信じてんの?」

涙が出るくらい相手は笑っている。

私は恥ずかしさより苛立ちが出てきた。
この言葉はおばあちゃんの言葉。だから私は信じている。
それを否定するということはおばあちゃんのことも否定されているということだ。

悔しさからかいらだちからか私は徐々に涙が出てきた。

「…おばあちゃんが言ってたんだもん」

子供みたいな言い方だって自分でもわかっていた。
ああ、また笑われると覚悟した瞬間だった。

「…ごめん。小夜子さんが言ってたんだな。」

そう言いながら私の頭をぽんぽんと撫でる。

びっくりした私は彼の方見る。
そこにはあのときと同じ優しい微笑みを向ける彼がいた。

「お前何でここに来たんだ?」

衝撃の連続ですっかり忘れていた。

「そうだ!お葬式始まる前言いかけたこと聞きに来たの」

「なるほどな。じゃあ、着いてこいよ」

そう言いながらスタスタと歩く彼。

なにがなんだかわからない私はとりあえず着いていくことにした

優しいのか毒舌なのかよくわからない人。
でもこの人はきっとおばあちゃんのことを大切に思ってくれていることだけは確かだった。

不思議な人。
そう思いながら彼の背中を見つめる。
さっき頭を撫でられたことを急に思い出しまた顔が熱くなった。
些細なことかもしれないが唐突にあんなことされると恥ずかしくもなる。

「ねぇ」

「なに?」

「翔弥くんは王子様なんかじゃない」

なんだよそれと笑う彼。

これは彼に伝えたというより私自身に言った。

そのほうが正しいだろう。