「えー……」


 鳩井、本当に帰っちゃった。


 私は脱力して、そこにあった椅子にポスッと腰かける。


 ……ん?あれ?ちょっと待って、なんか忘れてる……

 ……は!!


 私はガタンッ!と立ち上がった。


 キス!!してない!!


 私は慌てて鳩井に連絡する。


 『鳩井!キスしてない!』

 
 するとすぐに返事がくる。


 『また明日お願いします』


「……明日で、いいんだ」


 そっか、そっか。

 まぁ、薬もあるし、別にいいのか。

 そっか……



「……」



 ……私は、したかったのにな。


 もう一度ポスッと椅子に座った私は、鳩井にOKスタンプを送ってスマホを置いた。
 

 鳩井、用事ってほんとかな。

 なかなかのビッグニュースが二つもあったのに、反応ぬるいし。

 いや、鳩井の感情グラフが動かないのは、元々かぁ。

 でもキス魔が治るんだよ?

 もうちょっと反応しても良さそうなのに。

 私の映画出演だって……もう少し嫉妬とか、してくれてもいいのにな。



「……はー」


 私はため息をついて机に頬をくっつける。
 

 ……なんか、カップルって思ってたのと違った。

 鳩井、連絡も塩だし。いや、ネットだけ饒舌な鳩井も嫌だけど。

 カップルになったら、自然となんでも分かり合えるようになるんだろうって、思ってた。

 でも全然わからない。

 むしろ前よりわからないかもしれない。

 彼氏の考えてることが、全然、まったく、わからない。