「……どんな映画?」


 いつの間にかすぐ後ろにいた鳩井。

 後ろから手を伸ばして、スマホを持つ私の手を掴んで画面をのぞき込もうとしている。

 不意打ちの近さにドキッとする。
 

「っ、えっと……夏休みに高校生の男女四人が田舎の港町で出会って、恋に落ちる青春純愛映画で、」

「純愛?波木さんも恋愛する役?」

「うん!あっ、でもキスシーンはフリだって!ハグとかはある、みたいだけど……」

「……」

 
 って、あれ?ラブシーンの心配かと思ったんだけど違った?そこは別に興味ない、かなー…?

 ちらっと見上げた鳩井の横顔は、これ以上ないくらいの無、で。


「……そうなんだ。おめでとう。頑張って」


 鳩井はいつもの静かな低い声で言って、スッと離れた。


「あ……ありがとう、頑張るー……」


 と、私の返事を聞きながら鳩井はスクールバッグを手にする。


「……ちょっと用事思い出した。帰るね」

「え!?ケーキは!?」

「あー……先生と波木さんで食べて」


 鳩井は言いながら保健室の扉をあける。
 

「えっ嘘、待ってはとー……」

「ごめん、急ぐから」


 ガラガラッ、ピシャン。