私はその時まで、大事なことを忘れていた。

 鳩井は、私とは住む世界が違う。

 世界中にこの幸せな気持ちを言いふらしたい私とは、違う。

 今まで目立ってなんぼだった私とは反対で、鳩井は静かに、はじっこで、なるべく目立たないようにして過ごしてきたのに……

 勝手に私の世界に鳩井を巻き込むのが正解だって、それが鳩井にとっても幸せなことだって思い込んでた。



「……わかった」



 彼女になったからって、私が鳩井の世界を壊していいわけない。


 ……でも



「外で手つなぐのも、ダメ……?」



 デートとか、思いっ切りできない?

 プリクラは? 一緒に帰るのは?

 そういうカップルらしいこと、出来ないの?



 涙目で見上げる私に、鳩井が何か言おうと口を開いた。
 

「……」

「……」

「……」


 何にも言葉が出てこない鳩井の顔が、青白くなっていくのを見ちゃったら、さすがに悟る。


「……わかりました」


 わかりましたよ、我慢します。

 鳩井のためならなんでもします。

 ……本音を言えば、ちょっと寂しいけど。

 鳩井の気持ちを汲んであげたい。