「…………」


 思考停止したのか、鳩井がそのままの姿勢で固まってる。

 見られれば見られるほど、私の顔の表面温度はグングン上がっていく。

 ……な、なんとか言ったらどうだい?鳩井くん?




「外ではやめてくれる?」

「……!」




 鳩井は、冷めた目で淡々と言う。




「もし誰かに見られたら好きな人できた時に困ると思う。お互い」




 ……鳩井は知らない。

 鳩井の言葉が、どれだけ私にとって影響力があるのかを。




「あ……あー、確かに!あはは、……ごめんっ!」


 さっきとは別の意味で、顔が熱くなる。

 無言でボールを取りに行く鳩井の背中を見ながら、急に居心地が悪くなる。

 わー、やだな、私、やだなー……。とんだ勘違い女だ。


「波木さん仕事は?」


 鳩井はボールを拾いながら私に声をかける。


「……あ、そろそろ行かなくちゃ、かも」

「そう。じゃあ、気をつけて」

「うん……また」

「うん」


 手を挙げて練習に戻る鳩井を背に、私は歩き出す。


 ……あーっ、

 調子乗った、恥ずかしい、やばい、泣きそう。




 『好きな人できた時に困ると思う……お互い』




 私たちはフレンドで

 好きな人できるのが前提の、利益が一致したからキスしてるだけの、友達。

 友達なんだよ。

 それ以上には、ならないんだよ。

 鳩井は私を好きじゃない。

 真面目で静かな鳩井と、不真面目でうるさい私は、きっと住む世界も、見えてる世界も違う。

 ……調子乗んな、バカ。



 私は意気地なしな心につーんとなる鼻を、ぎうう、とつまんで必死に足を前に運んだ。