|《絶妙な関係》

「今日は、脚を描かせて欲しい」

朝、席に着くなり藤くんはそう言った。

藤くんのモデルのお手伝いをしてから3週間。
藤くんは手、腕、髪の毛と、割と細かく分けて描いていた。
モデルをやるのと同時に、苦手克服に向けてその部分ほんの少しだけ触ってもらってみたりしたから

脚と言われた時は、思わず身体が強ばった。

「…脚?って、太ももから足首にかけての?」

恐る恐る確認すると、藤くんはコクンと頷く。

「そう。膝の辺りの動きとかふくらはぎの重力に対しての落ち方とかを描きたい」

ダメそう?と藤くんは少し残念そうに首を傾げた。

「ぜ、全然!だって藤くんのキャンバス倒しちゃったの私だし、こうなってるのも私のせいっていうか」
「?別にそれに関しては特に怒ってないけど」

そう思わないと怖いんだよ…!

藤くんは「私の脚」を見ることについてはあまり考えてなさそう。あくまでも私の「脚」を描くことが目的だから。

そう考えると、勝手に怖がって緊張しているのも申し訳なくなってきた。

「あれ、おはよう2人とも!朝から暗い顔してどうしたの?」

りっちゃんは手にチョコをいっぱい持って教室に入ってきた。

「あ!りっちゃんおはよう!何でもないよ、大丈夫」
「もー、まーたみくるは隠すんだから!辛いことがあったら言ってよー?」

りっちゃんは私をギュッと抱きしめた。

りっちゃんには言えることは全部言ってる。言えないことが大きすぎるだけで。

「そだ、そういえばさ、遊園地のチケットもう1枚、なーさんの彼氏にあげたらしいよ!」

えっ?なーさんの彼氏?!

そう!とりっちゃんは少しわくわくしたようにそう言った。
それもそのはず、私たち2人はなーさんの彼氏に会ったことがない。話は聞いてるけど、写真とかを見たこともない。