「ごめんな、待たせて」

私は病院近くのカフェで雑誌を読みながら待っていた。仕事終わりの瑛ちゃんが現れて、私の傍に駆け寄って来た。

「何を読んでたの?」

「初めての出産だよ」

育児雑誌から年に一度、内容を更新しながら出している定番の出産雑誌。初めての出産で不安と戸惑いもあるけれど、赤ちゃんに会えるドキドキとワクワク感で心躍らせながら眺めていたのだった。

「俺も見たいから、帰ってから一緒に見よう」

「うん」

瑛ちゃんは私に手を差し伸べ、私は躊躇なく手を繋ぎ、支払いを済ませてからカフェの外に出た。手の温もりが心地好い。

瑛ちゃんは相変わらず忙しく、泊まり込みになる事もあれば、休みの日の呼び出しも多々ある。そんな忙しい合間を縫っては、マタニティブルーにならない為にか、私の事を気遣い、気晴らしに夕方からのデートに誘ってくれたりする。今日は夕飯を食べに行く約束。

妊娠後も可能な限りは兄の和菓子屋の手伝いを続けていたが、瑛ちゃんが帰って来たら直ぐに夕飯に出来るように早めに切り上げている。

今日はお休みを貰って掃除をしたりして、夕方にやっと外に出た。外に出た時に真夏の暑い空気を身体に感じた。遠くまで移動するのも身体的には辛いので、ショッピングモールのテナントで食事をする事になった。病院で働く方や患者さん、和菓子屋のお客さんに会うかもしれないが、瑛ちゃんはお構い無しに手を繋いでくれている。

"この人が私の夫です"と見せびらかす様に堂々と歩ける事が気恥づかしくもあり嬉しくもある。瑛ちゃんは見た目も格好良いので、すれ違う女性の視線が痛い。