エプロンを外して左手に抱え、右手は瑛ちゃんの手と重なり合っている。

最後に手を繋いだのは私が小学校の低学年の頃で、瑛ちゃんは中学生だった。あの頃は幼く、瑛ちゃんもお兄ちゃんという存在の括りになっていたので手を繋いでも何とも思わなかったが、大人になってからは何だか変な感じがする。骨ばっていてスラリと長い指が私の手を包み込んでいて、知らない誰かの手みたいだ。

「あ、瑛ちゃん……、私は仕事中なんだけど?」

「たまにはサボっても良いでしょ? お店には初音さんも居るんだし、大丈夫だよ。それに……、陽菜乃は少し疲れてる気がするんだけど気のせい?」

瑛ちゃんは優しく微笑みながら、私の顔を覗き込んだ。周りにはテナントが沢山あり賑わっている中、私は驚いて立ち止まった。それでも繋いでいる手をグイッと引っ張り、強引に連れて行かれる。

「瑛ちゃん、どこに行くの?」

「それは着いてからのお楽しみだよ」

エレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押す瑛ちゃん。最上階と言えば、ショッピングモール内での癒しの場所だと想像がつく。エレベーターから降りた時に、その場所が貸切なのだと知らせる表示が目に入った。

「今日は貸切なのでは……?」

このショッピングモールの最上階の屋上には腕利きの庭師が作った日本庭園と茶室が存在している。

瑛ちゃんに連れてこられたのは屋上の日本庭園だった。日本庭園は企業が海外のお客様を招いた際のお茶会や趣味のお茶会など、様々な催しが貸切で開かれている。

貸切がない場合は、時間帯に限りがあるが無料開放されていて、一般客も自由に出入りが可能だ。だが、しかし……今日は"貸切"となっている。