結婚を前提に付き合いを始めてから、このマンションに訪れたのは二度しかなく、今日が三度目だ。初めて訪れた時は高級過ぎて驚き、足がすくんだ。

低層レジデンスと呼ばれる高級マンションの3階に位置するこの部屋は4LDKのファミリー向けタイプ。一部屋、一部屋が広々としている。寝室が一部屋と子ども部屋が二部屋として考えても充分に家族で暮らせる間取りだ。子供が三人以上になっても部屋を仕切れるので、家族が増えても安心出来る。

常駐のコンシェルジュが24時間滞在していて、中庭もあり、緑に囲まれていて安らぎを感じるマンションだ。このマンションは総額でいくらするのかも想像出来ないが億はすると思う。

全てが高級過ぎて、庶民的な私は順応出来るのだろうか?

「はい、お待たせ。もらった茶葉なんだけど、結構美味しいと思うんだよね」

「ありがと、いただきます。…わぁ、良い香りがする」

ふんわりとベリー系の香りが漂うフルーツティー。口に含むと砂糖を入れなくても、ほんのりと甘い様に感じられた。瑛ちゃんはコーヒーを飲みながら、私の頭を撫でた。

「今日から陽菜乃が一緒に住むんだよな。引っ越しも終わったし、段々と実感が湧いてきたよな」

「うん、実感も湧いてきたけどね……、私は瑛ちゃんにドキドキさせられっぱなしだよ」

カップを両手で持ちながら話す。頭を撫でられるのは慣れてきたが、瑛ちゃんが隣に座る事にはまだ慣れない。たまに顔を覗き込まれると恥ずかしくて後退りしそうになる。

「そう?」

ほら、また悪気なく顔を覗き込まれた。

「……っゔ、急に顔を覗き込むのやめて!」

顔を赤らめながら指摘した後に突然にキスをされた。両手に持っていた紅茶を零さなくて良かった。瑛チャンはニヤッと笑って、何事も無かったかの様にコーヒーを飲んでいる。