幼い頃から、カッコいいものが好きだった。
好きな動物はと聞かれれば、ライオンやチーターと肉食動物を答えていた気がする。

そんな夏樹がある日、音楽番組を見ていて出会ったものがある。それがダンスだった。
テレビ越しに男性アイドルグループが、息の合ったダンスと歌声を披露している。
曲の後半になって息が上がるはずなのに、キラキラしていてずっとカッコいい。
そんなアイドル達のカッコよさに、当時6才だった夏樹は感銘を受けた。

自分もあんな風に踊ってみたいと、母親に言えば母親も直ぐにダンス教室に通わせてくれた。
ダンスを習い始めて6年が経ったくらいだろうか、夏樹は自分のダンスを人に見てもらいたいと思った。
あの日、テレビの中で踊っていたアイドルのように、自分も輝ける場所が欲しいと持った結果だ。
中学1年生の春、友人になったばかりのユメを誘いダンスカバーの撮影をした。
何もかもが拙い動画だったが、ユメはとても褒めてくれた。

徐々に動画が伸びて、夏樹はナツと名乗り『ベリーズファンタジア』で輝いた。
自身の男性的な見た目は、同世代の女子が好む容姿であり、またダンス技術は同世代の男子を虜にした。
ナツの動画を観た芸能事務所がスカウトをしてきたりと、夏樹の存在は人目を引くなにかを感じさせる。
それでも最近は動画を出しても、ユメ曰くマンネリ化してきてしまっていると云う。

「ナッちゃん、新しい事に挑戦してみるのは?」

「最近バズってる曲が、振りを入れるのがやりにくくて……」

「あー、確か少しダウンテンポな曲だったよね?」

「そう、テンポの遅い曲は振り付け入れるの苦手」

「そっかぁ」

そう言って、夏樹は曲の再生リストをスクールした。
そんな夏樹に少し飽きたのか、ユメはSNSを見た。するとホームのおすすめ欄に、興味深い記事が載っていた。

「男性アイドル発掘オーディション……か」

「ん?」

「いや、何でもない……」

その記事をみたユメは、夏樹から隠れるように詳細をタップした。
そんな事とはつゆ知らず、夏樹は中々進まない振り付け作業を進める。

この時、夏樹がユメの思惑に気付いていたら、少しは違った未来があり得ていたのかもしれない。