翌日、詩月はシュテファン広場の動画を動画サイト管理者へ、削除依頼した。

詩月自身は兎も角、ロベルトには不名誉な動画だと思っての依頼だった。

既に拡散もされていて、何処まで対処できるか判らないとのことだった。

「大丈夫だったか！」

詩月が早朝から掛かってきたスマホの着信に出ると、岩舘理久が、凄い剣幕で捲し立てた。

詩月は経緯の説明と理久を宥めるのに半時間以上かかった。

詩月が郁子も動画を観たのかと訊ねたが、幸い観ていないようだとのことだった。

「新型ウィルスの影響か、規制規制で世の中が疲弊して、ピリピリしているよな。何がきっかけで不満が爆発するか。自由に演奏するのは止めないが、慎重にな」

理久は詩月に神妙な面持ちで釘を刺した。

幸いシュテファン広場の騒動は１週間も経たないうちに、語られなくなった。

ピアノが撤去された広場は何事もなかったように、いつも通り人々が行き交う。