「ただいま」
「おかえり」
私が帰ると、必ず「おかえり」と言ってくれる人がいる。
でもそれは家族ではなくて、シェアハウスをしている女の子という訳でもない。
「ケーキ買ってきちゃった。優太くんも食べる?」
そう、おかえりという声の主は男の子。
しかも同級生なのだ。
同棲していると言われればそうではある。
でも寮の同部屋の子と言えばそうとも言える。
私たちは付き合っている訳でもない、ただ特殊な学校に通うカップル......という名のペアだ。
結婚科があるこの学校、七海学園(別名一攫千金婚校)は、世界一の結婚を目指し、「金の夫婦の卵」に選ばれたら卒業と同時に入籍すること、大IT企業の社長になれるという変わった学校。
本当は普通の高校に進学するつもりだった。
でも、中学2年の終わりに好きな人の転校を知った。私が熱で学校を休んだその日が、彼の最後の登校日だった。
気持ちを伝えることも出来ずに、彼とは離れ離れになってしまった。
……縁がなかったのかな……?
そんな失恋真っ只中の私の目に飛び込んできたのが、今通っている高校、七海学園のTVCM。
運命の人と出会えるなら、将来が安定するなら。あと上下関係がないなら楽かなー、とか。
傷心中の私に取り付いて離れなかった。
まるで耳にタコができるほど無意識に流れ続けるCMソングみたいに。
そこからの私は必死だった。
否定的だった親と先生を説得して、ひたすら勉強した。
恋愛なんて高校入学したらできるんだから、どうでも良くなった。
出会いは今しかない。そんなことを言って、勉強と恋愛を両立する友達もいたけど、私には未来で待ってる運命の人がいるから。だから、忘れられない彼とはもう会えないのにあなたは、なんていう嫉妬なんか忘れて、必死に勉強に打ち込んだ。
輝かしい未来のために努力を積み重ねた結果、合格。
その2文字に思いっきり心が震えたことを今でも忘れられない。