「高橋さん、大丈夫?」

え…

俯いた顔を上げると、すぐそばに一ノ瀬くんがいた。

「大丈夫?怪我してない?」

「うん、ちょっとびっくりしただけで…」

スッと立ち上がった一ノ瀬くんがその男の子の前に立った。

「ぶつかって来たのはそっちじゃない?」

一ノ瀬くんの方が少し小さい、でもそんなの物ともせず向かっていった。

「なんだよお前!」

「今のは高橋さん悪くないよね、謝ってもらえる?」

「は、んだよ。めんどくせぁなっ」

チッって舌打ちまで聞こえた。

これいいのかな、大丈夫なのかなぁ!?

でも私に何もできなくて。

「謝ってって言ってんの」

さらに一ノ瀬くんがぐっと詰め寄る。

緊張感が走る。

それはもう50メートル走なんてあっという間に終わっちゃうぐらい。

「…っ」

めんどくさそうに男の子がわしゃわしゃと頭を掻いた。
何も言わなかったけど、あれだけガン飛ばしていた視線を変えてその場から足早に去っていった。

…大丈夫だったのかな?

「高橋さん、大丈夫!?」

「う、うん…私は全然」

あんまり問題起こしたら評価に響くし、これで収まったのかもしれない。

「それなら、よかった」

にこっと一ノ瀬くんが笑った。

「立てる?あっ…」

手を伸ばした一ノ瀬くんがサッと戻した。

それはたぶん私に気を遣ったから。

“私…っ、男の子が苦手なの…!”

正直言えば、まだ怖い。

嫌だなって思うこともある。

だけど、一ノ瀬くんは…!

「もうすぐチャイムなるよ、急ごっか!」

他の男の子と違う気がするの。