無口な担当医は、彼女だけを離さない。



とうとう診察室についてしまった。



「あのさ。診察の前に担当医として1個聞きたいんだけど」

「はい」

「病院が苦手なの?それとも男が苦手なの?」

「えと…病院、も、男の人も、です」

「そっか、せめて担当医は女性の方がいいよな」

「あ…大丈夫、です。私もそろそろ忘れなきゃなって思ってたので…平気です」

「…そう」



わざわざ担当医を変えてもらっても無理な可能性の方が高いし。



「まぁ俺は一応斎藤さんの担当医なわけだから。話せる範囲で教えてくれるとありがたいかな」

「そう…ですよね」



いつかは話さなきゃいけなくなるわけだし、もう最初に言ってしまおう。


何から話そう。お母さんのこと?それとも…施設で暮らしてたこと?


話すべきことは山ほどあるはずなのに全部喉の奥に引っかかって出てこない。