無口な担当医は、彼女だけを離さない。



「栞麗、ちゃん?」

「え…」



病院に向かおうとした時、バス停の後ろから声をかけられた。


反射的に肩がビクッと震え、私はすぐに振り返る。



「帰ってきてたの?卒業振り、だよね?」

「清水さん…お久しぶりです」



話しかけてきたのは私の施設にいた大人の1人、清水さんという人。


3年前と変わらない髪型と服装だったのですぐに分かってしまった。



「隣の方は…?」

「えっ、と」

「栞麗さんとお付き合いさせていただいております、柊です」

「あら…そう」



世那くんも清水さんの服装や私の話し方で施設の人だと分かったのか簡単に挨拶までしてくれた。



「あのね、栞麗ちゃん。私…!」

「ごめんなさい。私今日予定があって来たので。…来たくてきたわけじゃないんです。失礼します」



私はそう言って清水さんに背を向け歩く。


もちろん清水さんは追いかけてこなかったし、世那くんのことも置いてきてしまった。


何を言われるか分からない。怖い。その気持ちばかりが頭の中を占める。


この場所から逃げられてやっと最近普通の生活ができるようになったんだ。


それなのに過去の人と話したら…また戻ってしまう気がして怖かった。


今まで必死な思いで積み上げてきたものがもしあの人の一言で崩れてしまったら、私は今度こそ立ち直れない。