無口な担当医は、彼女だけを離さない。



何度目かの沈黙の後、お父さんは言った。



「もう長くないんだ」

「え…」

「15年前、大きな病気をしたんだ。その時から10年は生きられないとは言われてたんだけど」

「もしかしてお母さんと離婚したのって」

「栞麗や母さんに迷惑かけるわけにはいかないからね。1人で生きる覚悟を決めたよ」



背筋が冷たくなっていく感覚。よく聞いたことのある表現だけど、こういうことなのかと実感した。


やっと話せたのかと思ったのにこんなこと…。一瞬で絶望に包まれた私。


何も言葉にできない私にお父さんは続ける。



「最近症状が悪化したんだ。もう充分。でも…最後に栞麗の顔が見たかった」

「なんで…なんで最後なんて言うの?散々私に寂しい思いさせておいてまたいなくなるのっ…?」

「栞麗、ごめん」

「そうやってお父さんはすぐ謝る…謝るくらいならこれからは私の傍にいてよ!」



お父さんが最後、なんて言うから思わず電話越しに怒鳴ってしまった。


う…と声が漏れたと同時に涙が頬をつたう。



「栞麗、どうした…」



私の声を聞いて心配になったのか世那くんが部屋に入ってきた。


泣いている私に近づき、小声で話しかけてきてくれる。


その声で少し我を取り戻した私は手の甲で涙を拭き、再びスマホを耳にあてる。



「とにかく…明日会いに行く。住所は後でメッセージで送っておいて。今日は切るから」



何かお父さんが言いかけたような気がしたけど、私はすぐに電話を切った。


いつの間にかまたスマホを持つ手が震えていることに気が付く。


これが怒りなのか悲しみなのかは分からない。


ただ私は俯きながら涙を流すことしかできなかった。