「詩織さん、だったかしら」


「はい、降谷くんのクラスメイトです」


降谷くんのお母さんは、私の前に、温かいお茶を淹れたカップを置くと、向かいに座った。


「そう……。どうして、ここへ?」


嘘、きっと降谷くんのお母さんは私がここにきた理由をわかってる。


でも、わざわざ聞いてくるってことは、あまり人に話したくないのだろう。


「……玲弥くん……が、どうして学校へ来なくなってしまったのか……を聞きにきました……」


我ながら、とても失礼な質問をしているとわかっている。


けれど、これを聞かずに帰ることなどできない。


降谷くんのお母さんは、少し困ったような顔をすると、黙って首を横に振った。


「ごめんなさい。私から言っていいようなことじゃないの」


ただうつむいて、悲しそうな瞳を揺らすばかり。


「……でも、玲弥くんが来なくなって、クラスの雰囲気も少し変わってしまったんです。玲弥くんが元気に来られるように私たちも何か力になりたいんです」


今、降谷くんがどんな状態で、どこにいるのかも知らない。


もしかしたら、部屋に引きこもってしまったのかもしれない。


もしかしたら、遠いところへ留学でもしたのかもしれない。


もしかしたら___……。


そんなパターンはいくつも浮かんでくる。


けれど、あの降谷くんが、大好きなクラスメイトたちを___……。


「私たちにとっても……本当に大切な存在なんです……」


離すわけがない。


そうでしょ……?


降谷くん……。


降谷くんが見せてくれた鮮やかな世界、もう一度見たいの……。