聖なる夜に王子様と初めての口付けを

玄関のドアノブを握る音がして、私は、気付けば駆け出していた。

「千歳待ってっ」

思わず、千歳の腕を掴んで引き留めたものの、続く言葉は出てこない。

自分でもどうしたいのか、どうしたらいいのかわからない。

千歳が困ったように笑った。

「良かった」

「え?」

千歳が、私の髪をくしゃくしゃと撫でる。

「実花子が引き留めてくれなかったら、どうしようかと思ってたんだけど?」

千歳が、私の肩から、ずりおちていたブランケットを首元までかけ直す。

「僕さ、今日一日中、実花子の事考えてたんだよね」

「千歳?」

「実花子と連絡取れなくて、すごく心配したし、でも家に押しかけるのも何だしさ、もしかしたらクリスマスだし、誰かから、急にデートのお誘いが入ったのかもしれないとか思ったりね」

「他にデートする人なんていないっ」

何か言葉にすれば、堪えていた涙が、溢れてくる。

「泣かないでよ。ほんと、泣き虫」

千歳が、私の身体をそっと抱きしめた。とくんとくんと聞こえて来る千歳の鼓動が、心地よくてずっと聴いていたくなる。

「でさ、こんな実花子のことばっか考えてるのって、僕、実花子に恋してんのかなって」

慌てて顔を上げれば、涼しい顔をした千歳と瞳が合った。