聖なる夜に王子様と初めての口付けを

「何よ?」

「美味しかったでしょ?」

「お腹減ってたからっ」

自分でもつくづく可愛くないなと思う。

こういう場面で、あの美弥(みや)っていう子みたいに、恥ずかしそう頬を染めながら、美味しかったよ、と素直に言葉にできたら、どんなにいいだろう。

きっと、お花みたいな、ああいう可愛らしさのある女の子を、千歳は、好きになるんだろう。

「良かった。実花子、昨日から、ろくなモノ食べてなさそうだったしね。あ、そこに出しといた薬飲んどいてね」

千歳は、私の空の器と一緒に自分の器も抱えてキッチンで洗い物を始めた。

私は、薬を放り込むと、グラスの水を飲み干す。背の高い千歳は、少し屈みながら、食器の泡を洗い流していく。

(何だろ……この気持ち)

さっきまで食欲なんて、まるでなかったのに、食事を作って出してもらうと、何故だか急に食欲が湧いて、あっという間に食べてしまった。

それに、目の前に千歳がいて、千歳が甲斐甲斐しく看病してくれることが、むず痒いけど、嬉しくて、ほっとする。

私は、千歳の後ろ姿を眺めながら、小さくため息を吐き出していた。

(違う……違わないと困る)

千歳への気持ちが、ただの同僚から姿を変えてはいけない。

だって、もう好きになるのが怖い。

叶わない恋なら尚更だ。

「あれ……?」

叶わない?恋?自分の脳に浮かんだ言葉を反芻する。