聖なる夜に王子様と初めての口付けを

ーーーー颯と全然違う。

颯は、こんな子供じみた、意地悪はしなかった。というより、よく考えれば、颯とは恋人同士の時は、ケンカもしたことなければ、言い争いすらしたことない。

もちろん、バカなんて言おうと思った事もない。

「……実花子、さっきから誰と比べてんの」

はたと、気づけば千歳が、拗ねた顔をしている。私は思わず笑っていた。さっきまで余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)としていたクセに、千歳は、おやつを買ってもらえなくてグズっている、子供みたいな顔をしている。

今しか言えないかも知れない。
ちゃんと言わなきゃいけないことなんて、重々承知している。

「一回しか言わないからっ……」

「うん」

「……千歳が好き……かも」

くすぐったくて、つい、『かも』とつけてしまった。

同時に、自分の言葉が、嘘だとすぐにきづく。きっと私は、もう千歳が好きなんだろう。千歳は、形の良い薄い唇を引き上げた。

「かも、ね。了解。すぐに、好きって言わせるから大丈夫」

私は、黙って千歳の背中に両手を回した。すぐに千歳が私を包み込んでくれる。

この腕が、心地よくて、もう誰にも渡したくない、なんて頭に過っていることを千歳が知ったら、また意地悪く、満足気に口角をあげるのだろう。

僕がいなきゃだめなんだ、とか言って。

「僕がいなきゃダメだね」

「え?……何で……」

私は、思わず片手で、口を覆った。