その2
夏美


合田荒子は今年の新入メンバーの一人には違いないんだけど、彼女の場合、その突出した存在は中学自分から知れ渡っていて、いわば私たちの界隈では有名人だったのよね

その上、彼女は既に伝説を持っていた

”紅丸先輩の蒔いてくださった種は無駄にはさせません。どんど咲かせて、真っ赤な実でいっぱいにします!”

これは彼女が紅組の集会の場で、紅丸さんの目の前で右手を上げて宣誓した一節だった

そして中学時代から、高校生になったら南玉連合に加わり、”それ”を実行すると明言していたわ

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要するに合田荒子のその掲げる行動指針は、拡大路線…

しかも組織内部だけでなく、その赤塗り理念を県外にまで浸透させ、南玉連合をモデルケースとした女性集団の量産を目指す、実にスケールの大きい提唱だった

このいわゆる彼女のイケイケ路線という単純明快なアプローチに、中高生の女子からは熱い支持が集まったわ

それは日を追うごとに広がって、彼女が今年の初めに西咲学院高校に合格したことが伝わると、もう荒子の周辺にはその理念に共感を寄せた同年代の少女たちが群がっていた

まあ、これ自体、何ともよね…

さすが、猛る女の発祥地ってとこよ


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何しろその後の展開は瞬く間だったわ

それらの少女たちはいつの間にか、荒子支持集団というか親衛隊のような形態を成して、もはや高校に上がる前から発熱した少女たちのカリスマと化していたわ

紅丸さんはそんな彼女に、覇権主義のアジテーションみたいな振る舞いは慎むようにと何度も解いたそうだが、彼女の口にするのは通り一編のままだったそうよ

そんな合田荒子に半ばさじを投げた紅丸さんが、思わず口にしたフレーズこそ、”あの狂犬娘のヤツ…!”よ

そこから彼女は”赤い狂犬”、”狂犬娘”が代名詞となる訳でね…

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”その狂犬娘が来る!”

すわ…、南玉連合はまだ中学を卒業していない一人の少女の受け入れ対応を巡って、なんと、春を前に幹部会の議題にもなったのよ!

正に異例のアクションよね…

そこで、南玉連合内の北見先輩を中心とする急進派がある思惑に至ることとなる

それは、既に巷で熱い支持を得てる狂犬娘のイケイケ路線を、自分達の拡大急進方針と同列化させ、言ってみれば彼女を神輿に担ごうと…

ということは必然的に、彼女が南玉に加入した次の年…、つまり来年春の代次で合田荒子の南玉連合総長を実現させることが当面の到達点になるわよね

真澄たちの目論みは、まさしくそうということになるわ

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”あの狂犬娘が来た…!”

この段階に及んで、真澄は北見先輩から急進派の主導的立場を引く継いだわ

その結果、事実上、合田荒子体制樹立のリード役を担うことになったはずよ

そして、狂犬娘が南玉に加入し、数か月…

この間の狂犬効果はめざましく、南玉内における急進勢力は一気に台頭したのよ